取材年月:2024年3月
定期的にMRから情報収集を行っていない医師(「MR未リーチ」と定義)は、薬剤・治療情報をどのように収集しているのでしょうか?
今回は、公立病院 血液内科に勤務されているD先生のインタビュー内容をご紹介します。
同テーマで大学病院乳腺外科勤務医へ行ったインタビュー内容も公開していますのでぜひご覧ください。
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医師インタビュー「MR未リーチ医師の、疾患・薬剤情報収集方法‐大学病院勤務医師編‐」
(2024.06.19)
D先生プロフィール
・施設形態:公立病院
・診療科:血液内科
・年代:40代
・新薬の処方意向:新薬は進んで採用・処方を検討
背景・目的
「定期的にMRから情報を入手していない」(=MR未リーチ)医師群へ「処方行動が変化した薬剤の情報源」を聞いたところ、「インターネットサイト」、「インターネット講演会」がともに50%以上と高い割合となりました。
しかし、MR未リーチの医師群であるにも関わらず、処方行動が変化した薬剤の情報源として「MRから入手した情報」を選択している医師も一定数いることが分かりました。(DM白書2023年春号)
そこで、MR未リーチの医師の疾患・薬剤情報の実態を明らかにするため、2名の医師にインタビューを行いました。
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ラボ限定データ「MRがリアルでアプローチできていない医師の情報入手先」
(2023.08.04)
詳細
定期的にMRと会っていない理由は、「MRから新薬に関する有益な情報を得られないから」
先生が定期的にMRに会っていない理由を教えてください
D先生
最近は、新薬発売前にMRから有益な情報が得られなくなってきているからです。
新薬の臨床試験段階での薬剤情報は、学会や論文から入手できますが、コンプライアンスの問題で新薬承認前にMRから情報収集することはできません。MRからの情報は承認後となるため、すでに知っているものが多く、定期的にMRに会うメリットはあまりない と感じています。新薬情報は学会やインターネットサイトなどから入手し、MRからは新薬発売後に、有害事象や市販後調査などの情報、他施設の使用状況などを入手 しています。
これまで、MRから新しい情報を得ることはあったのでしょうか?
D先生
はい。以前はわたし自身の知識や情報が足りていなかったこともあり、MRから新しい情報を得ていました。今は、自分自身の経験値も上がってきたため、MRから新しい情報を得るより自分で調べたほうが効率的だと思っています。
新薬の処方イメージを固め、薬剤を適正利用するための最適なチャネルは、「インターネットサイト」
「MR未リーチ先におけるメディアマインドシェア※1 」の表を見ながら、D先生のチャネル活用比率を回答いただいた結果は下表※2 のとおりです。
※1 媒体ごとの接触時間や影響度を測るための指標で、医師が疾患・薬剤情報を得る際に活用する媒体について全体を100%とした際に各メディアが占める割合を指します。メディアマインドシェアについてはこちら
※2 医師版マルチメディア白書2023年冬号
DM白書2023年冬号(調査期間:2023年10月13日~10月20日/調査方法:インターネット/有効サンプル数:医師5,069名)
最も割合の高い「インターネットサイト」(40%)は、どのように利用されていますか?
D先生
インターネットサイトでは、学会や雑誌などで新薬発売前の薬剤の臨床試験の情報を得て、細かく知りたい場合は論文を確認します。 情報が先行している、海外の学会内容をまとめたインターネットサイトなどを利用して、情報をあらかじめ入手しておきます。
どのようなツールで情報収集しているのでしょうか?
D先生
「The New England Journal of
Medicine」などのジャーナルや、医学雑誌などを利用しています。また、情報がまとまっている医療系のインターネットサイトをお昼休みなどにパッと見て、興味があるものを論文で確認しています。他剤と比較してどのような患者さんにどのようなケースで使用するのが良いのかという、「薬剤の立ち位置」を自分の中で決定したいと考えています。
製薬企業が提供しているWebサイトに掲載される臨床試験データなどはご覧にならないのでしょうか?
D先生
パッと見たことはありますが、結局はそこに行きつく前に情報を入手できてしまいます。また、製薬企業のWebサイトは薬剤に対してポジティブな情報が多いと感じています。メリットだけではなく、デメリットや批判的な意見も必要なので、そのような情報は製薬企業のWebサイトで詳しく調べる必要はないと思っています。
次に割合の高いのは医療系雑誌(20%)ですが、論文の入手先として利用されているのでしょうか?
D先生
はい。医療系雑誌では、論文以外に薬剤情報も入手します。複数の情報源から薬剤の効果や副作用、飲み方などを確認することで、薬剤のイメージと使用する患者像を徐々に固めていきます。
複数の情報を入手するのには、医療系雑誌が最も使いやすいのでしょうか?
D先生
はい。効果の比較だけであれば論文が1番だと思いますが、実際には、効果が同等で作用機序の異なる薬剤の使い分けがわからないということは結構あります。どの薬剤がどのような患者さんに向いているのか、といった点は、症例数が少ない場合は自分で考えていく必要があるので、EBMがまとめられた月刊誌などを読んで見極めるようにしています。
具体的にはどういった雑誌を読まれているのでしょうか?
D先生
わたしは血液内科なので、「血液内科」「Blood」などです。
学会誌(10%)、学会(10%)、先輩・同僚の医師仲間(10%)はどのように利用していますか?
D先生
複数のチャネルで同じ薬剤の情報を繰り返し確認することで情報に厚みが出てくる ため、学会誌は似たような情報は飛ばして流し読みしています。先輩・同僚の医師仲間とは、薬剤の使い方をどのように考えているかなどについてディスカッション しています。
MR(10%)はどのように利用していますか?
D先生
MRからは、新薬発売後の有害事象や市販後調査など の情報、他施設の使用状況などを教えてもらっています。
同じ情報を、複数のチャネルから収集されるのですね。
D先生
はい。周囲も含めてわたしが最初に新薬を使う、という場合は特に慎重になるので、情報の量が必要になります。新薬をほかの先生も使っていて、使用感などもわかっていれば情報は少なくてもいいと思いますが、わたしは新薬を早めに使うタイプなので、論文には載っていない感覚や、合併症が起きた時の対処法などについての情報が重要になってきます。
MRの対応が薬剤使用に影響することはありますか?
D先生
有害事象が起きた時のMRの対応が、その後の薬剤使用継続に影響することはあります。 MRの対応が積極的で、早ければ早いほど助かりますね。新薬を早い段階で使うほど、有害事象に関する情報収集が必要なケースが多くなるので、MRを質問攻めにすることもあります。対応をしっかりしてくれると信用できるので安心感があります。情報提供が少ない場合は、不親切だなと思いますね。
他施設の情報は、MR以外から入手することもできますか?
D先生
スピード感が不要なら、入手はできます。わたしは、早く正確な情報が重要なのでMRから情報を入手しています。 副作用管理が早めにできるようになると「薬剤の立ち位置」が自分の中で決まり、新薬を使用する患者像を固めやすくなります。
インターネット講演会はまったく視聴しないのでしょうか?
D先生
視聴しないことはないです。長時間固定されて視聴することは難しいので、流し聞きをしています。
先生は、新薬発売前にひととおりの情報収集が終わっているのでしょうか?
D先生
はい。おおよそ7~8割の情報は新薬発売前に得ています。
興味がわいた薬剤は、学術情報+MR・インターネット講演会で情報収集
続いて、新薬処方の段階を以下5段階とした場合、興味が沸いた薬剤を調べるチャネルについて、段階別に回答いただきました。
専門領域での新薬処方の各段階で必要な情報と、その情報を入手するために利用するチャネルについて、教えてください。
D先生
主に情報収集しているのは「(1)薬剤の情報を収集している」「(2)既存薬と比較検討している」「(3)数例の処方をしている」の段階なので、そこについてお話します。
「(1)薬剤の情報収集をしている」「(2)既存薬と比較検討している」の段階では、どのような情報が必要で、どのチャネルを利用していますか?
D先生
「(1)薬剤の情報収集している」「(2)既存薬と比較検討している」段階は同時に進行します。この段階では医療系雑誌・新聞、学会、インターネットサイトを利用し、薬剤についての知識が徐々に固定化されていきます。おおよそのデータがわかって、効果が良いとなると使ってみたいと思います。この段階では、既存薬との比較はできないことも多いので、有害事象などで既存薬との使い分けを検討します。情報が正しいかどうかは、実際に数例処方してからわかるという感じです。
「(3)数例の処方をしている」段階はいかがでしょうか?
D先生
MR、同僚・先輩、インターネット講演会を利用しています。最初の1、2例はかなり慎重になります。他施設でも同様の副作用が起きているか、それともたまたま起こったことなのか、MRに問い合わせることもあります。
MRには面談で質問されますか?
D先生
面談、電話どちらもありますが、電話が多いですね。数例処方していると、論文には載っていない実際の使用感も得られるので、知識に厚みがでてきます。
同僚や先輩にも薬剤の使用感を聞いていますか?
D先生
はい。自分の処方経験に加えて、ほかの先生が新薬を処方して抱いたイメージを聞くことで、「薬剤の立ち位置」を自分の中で確立していきます。
インターネット講演会はどのように利用していますか?
D先生
インターネット講演会も、薬剤使用について検討するために利用しています。数例処方の段階で、処方経験のあるさまざまな先生の話を伺うことで、新薬使用時に困っていることの参考にしています。
チャネル組み合わせ意向は、インターネットサイト×医療系雑誌
DM白書ラボで調査を行った、MRリーチあり/なし、それぞれの医師における新薬処方の各段階における活用チャネルの組み合わせTOP3は下表のとおりです。
MRリーチ有無別・新薬処方の各段階における活用チャネルの組み合わせTOP3
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MR未リーチ医師の、新薬処方の各段階におけるチャネル組み合わせ意向
(2024.01.17)
新薬処方の各段階で、情報収集するチャネルが2つしか使えないとしたら、先生はどのチャネルを使いますか?
D先生
「(1)薬剤の情報を収集している」「(2)既存薬と比較検討している」の段階では、インターネットサイトと医療系雑誌です。インターネットサイトは、新薬や臨床試験に関する情報、関連するアブストラクトを把握できるという利点があります。その後は論文などを活用しますが、簡単にその段階までたどり着くためにインターネットサイトなどを利用します。
「(3)数例の処方をしている」段階ではいかがでしょうか?
D先生
この段階は実体験が重要です。添付文書などには、実際に副作用が「どの時期に起きるか」「どのような症例で起こりやすいか」などの情報はあまり書かれていません。そのため、実際に処方して得られた情報やMRが収集した情報、インターネット講演会からの情報がより重要です。
この段階では、MRからの情報が重要ということでしょうか
D先生
はい。「薬剤による典型的な副作用をコントロールするために、他施設ではどのような工夫をしているのか」「起きている副作用が典型的なものなのか、それとも非典型的なものなのか」などについて、MRに確認します。
新薬の処方意向の差が、チャネル活用傾向にも影響
MR未リーチの医師を対象としたDM白書の調査結果※3 が下表のとおりです。
※3 医師版マルチメディア白書2023年冬号(調査期間:2023年10月13日~10月20日/調査方法:インターネット/有効サンプル数:医師5,069名)
※4 「処方インパクト(PI)」は、プロモーション効果を推計するMCI DIGITAL独自の指標で、プロモーションにより処方行動が変化した薬剤の回答率を指します。詳しくはこちら 。
処方の意思決定をする際に使うチャネルとして、調査結果ではインターネット講演会が半数以上を占めています。これはなぜだと思いますか?
D先生
インターネット講演会を利用している先生は、「新薬をすぐ処方せずに少し待つタイプ」ではないでしょうか。新薬発売後の早い段階で処方するわたしのようなタイプは、インターネット講演会で取り上げられる前に、既に情報を入手し処方しているので、インターネット講演会を視聴する前には処方決定をしています。
MRからの情報は「他施設の処方状況」や「副作用情報の提供」が重要
薬剤プロファイル以外の処方決定要因への影響について、「MR活動への期待事項とその評価」の調査結果は下表のとおりです。
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MR活動に対する期待事項と現状評価
(2024.02.14)
定期的にMRにお会いになっていないということですが、ここまでのお話から、MRからの情報提供も重要とお感じになっている印象を受けたのですがいかがでしょうか?
D先生
もちろん重要です。自分が持っている情報が、他施設でも報告があるかなどはMRに確認しています。
製薬企業への信頼感などはMRの情報提供によってプラス評価になることはありますか?
D先生
薬剤の作用機序や効果は自分で調べることもできるので、MR以外からでも得られる情報で製薬企業を評価しなくてもいいかな、と思っています。製薬企業への信頼感につながるのは、医師とのやり取りに対応できるだけの知識と自信を持って、MRが対応してくれることだと思います。
先生が会っているMRの対応についてはいかがでしょうか?
D先生
新薬処方時は、至急で情報が必要になるので、急な問い合わせにも対応してくれて、必要のない情報の提供は控えてくれるという、押し引きができるMRは優秀だと思います。普段面談していないので、こちらの都合の良い話で申し訳ないのですが。
製薬企業によってMRのレベルは違うと感じられますか?
D先生
知識レベルがハイクオリティだなと思う製薬企業もありますし、MR側が医師に「学ばせてください」というスタンスで来るところもありますし、マンパワーもさまざまなので、製薬企業によって多少違いますね。
先生がMRに期待されている点を3つ挙げるとどれになりますか?
D先生
まずは「副作用や製品回収が起きた際の対応」ですね。2つ目は、「他施設の処方状況」です。他施設の状況でも副作用情報を把握できますので。得られた事例を意識しながら診療できるので、曖昧な情報でも助かります。3つ目は、「薬剤を切り替えるポイントとタイミングについての事例提供やサポート」で、これにより薬剤を切り替えやすくなります。
チャネル別利用状況まとめ
チャネル
詳細
メディアマインドシェア
必要な情報
インターネットサイト
「The New England Journal of Medicine」などのジャーナルや、医学雑誌など
40%
論文(新薬発売前の薬剤の詳細を確認)
新薬や臨床試験に関する情報、関連するアブストラクト
医療系雑誌
「血液内科」「Blood」などの専門領域向け雑誌
20%
論文、薬剤情報、 EBM
学会誌、学会
各10%
薬剤情報
先輩・同僚の医師仲間
10%
薬剤使用方法への考え方をディスカッション
MR
面談、電話
10%
新薬発売後の有害事象や市販後調査などの情報、他施設の使用状況、副作用コントロールの方法など
インターネット講演会
0%
数例処方の段階で、処方経験のあるさまざまな先生の話を参考にする。
長時間固定されて視聴することは難しいので流し聞き
考察
ラボ編集部より
今回は、定期的にMRから情報収集を行っていない(=MR未リーチ)の医師2名にお話を伺いました。インタビューでは、お2人とも薬剤の承認前から論文、学会発表を通じて情報収集を行い、承認後には採用可否がすでに決まっていること、製薬企業へ期待しているのは「数例処方」段階における副作用情報を、正確かつスピーディに提供してもらえること、 という点が明らかになりました。
定期的にMRと面談していない医師であっても、副作用情報や他施設の状況など、製薬企業しか持っていない情報の必要性は感じており、その点において、MRはなくてはならない存在 と医師に認識されていることも、インタビューからうかがえました。
定期的に会えていない医師だからこそ、医師の新薬処方意向や情報収集傾向を把握し、医師のニーズに合わせた情報提供がタイムリーに行えるよう準備 しておくことが、処方拡大の要になるのではないでしょうか。
今後
新たな調査項目
MR未リーチ医師は、今回お話を伺った医師と同様、新薬上市前のタイミングで自ら情報を収集しているのでしょうか?次回調査では、MR未リーチ医師が上市前の薬剤情報をどのように収集しているのか、という点について定量データをもとに明らかにしていきます。(2024年8月以降公開予定)
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