ラボの休憩室 Vol.20 イシューからはじまっていない製薬マーケティング
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきたフォルツァ氏に登場いただき、ざっくばらんな内容をお聞きします。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2026年1月
MR経験後、マーケティング部門にて多領域にわたる新薬ローンチ・効能追加時のプロモーション戦略策定、実行に10年以上従事。現在は、シニアマネジャーとして、セールス・マーケティング両面でのリード役を担う。 ■千葉 理洋(仮)
DM白書ラボ フェロー。
※肩書は取材時のものです。
| 千葉氏 | 前回までの回では、オムニチャネルに必要な5つの要素(チャネル、コンテンツ、プラットフォーム、データ、チェンジマネジメント)のうち、チャネルのプランと実行についてお話を伺いました。今回は、プラットフォーム、データについてお話を伺います。 |
|---|
マーケ部門がプラットフォームに期待することとは?
| 千葉氏 | プラットフォームについて、デジタル部門に期待することはどんなことですか? |
|---|---|
| フォルツァ氏 | チャネル戦略がワークするようにプラットフォームを作って欲しいですね。 |
| 千葉氏 | 例えばオウンドサイト上で、マーケティング部門とデジタル/オムニ部門とが連携することが難しい…ということはありません? |
| フォルツァ氏 | 僕の会社で言うと、「オウンドサイトで成し遂げたいこと」を決めていて、そこにアラインしたものでなければ掲載しません。 |
| 千葉氏 | なるほど。そういった判断基準が設定されていない会社も多いんじゃないでしょうか。 |
| フォルツァ氏 |
そうですね。基本的には会社のビジョンが該当すると思いますが、一貫した軸を持っていないところが多いんじゃないかな。 オウンドサイトって過去からさまざまな情報が累積されているので、ある点を境に大きく変えることが難しいなと思います。 |
| 千葉氏 | 例えば、デジタル/オムニ部門が作るオウンドサイトが、MRが関係性を作れていない顧客との新たな接点を生むきっかけになる、というようなことがあるとマーケ部門の方は嬉しい? |
| フォルツァ氏 | そういったことがあるといいとは思います。ただ、ブランドマーケターにとって、オウンドサイトって何十ある打ち手の1つでしかない。 |
| 千葉氏 | あぁ。オウンド担当者にとってはオウンドサイトがすべてなので重みが違うんですね。 |
| フォルツァ氏 | はい。ブランドマーケット側は「このぐらいのことなんとかしろよ」と思うし、オウンド担当側はオウンドサイトが全部だから譲れない、となる。認識の差が生まれてしまうんですね(笑) |
必要なのは「顧客を中心にデザインする組織体制」
| 千葉氏 | ログを活用したMR活動を行っている製薬会社さんも増えてきていますが、ログがあってもMRの案内が不要な先生もいます。“ログ=医師ニーズ“ではないケースもあると思います。医師の行動ログの背景を考慮せず、デジタル施策が一律の指示になっていることが結構多いなと思っていますがフォルツァさんはどうお考えですか? |
|---|---|
| フォルツァ氏 |
同意です。そこがパーソナライズされるのはいつなんでしょうね(笑) ただ、ある意味医師の行動ログって正直じゃないですか。背景がどうあれ、その行動を確かにしているので。問題なのはMRのログだと思っています。 |
| 千葉氏 | 確かに。MRのログから、MR活動を正確に把握することは難しいですね。 |
| フォルツァ氏 |
はい。「ディテールした」とログがあっても本当にできているのか疑問ですし、ディテールのレベルもわからない。ログと実態のギャップがあります。入力値もカテゴライズされてない。 これについては、もっとうまくやれないのかいろいろ考えています。 |
| 千葉氏 | MRの日報システムは、がちがちに細かいものを作ってもきちんと使われないんじゃないかなと思います。実際に使う方の視点も入れていかないとうまく機能しないんじゃないかなと。 |
| フォルツァ氏 | まったくその通りです。僕は今CX(カスタマーエクスペリエンス)をどう上げるか? をデザインしています。 |
| 千葉氏 | 重要ですよね。こういった話はオムニ担当が考えるべきだと思われます? |
| フォルツァ氏 |
べき論ならマーケですが、オムニやデータマネジメント部門が妥当じゃないでしょうか。 オムニチャネル部門は、基本的には戦略家ではなく実行部隊としてCXをどう高めるか? をデザインし、マーケティング部門はその下につくくらいのレベルにしたいなと思っています。顧客を中心にデザインできる組織体制が必要だと考えています。 ただ、ケーパブルな人がいないと難しい。 人に依存するのは良くないですけどね。でもやっぱり今ね、過渡期なのかなと思ったりもするんですよね。育成も難しいし、人に依存せざるを得ないのが現実。 |
| 千葉氏 | 前回、各チャネルの特徴を理解して使い分けができるスペシャリストが必要、というお話がありました。こういった専門家は外部から採用したほうがよいと思われますか? |
| フォルツァ氏 |
最近は外部から採用しているので、だんだん入ってきています。 ネガティブな側面としては他業界の方は製薬業界のコンプライアンスを知らないので、そういった方が入っても即ワークするのは難しくて、時間がかかると思います。 |
| 千葉氏 | 確かに製薬業界は特殊なところがありますもんね。 |
| フォルツァ氏 | 前回話にでたビジネスアーキテクトは、他業界の経験とファーマの経験があります。 |
| 千葉氏 | そういう方は強いですね。 |
| フォルツァ氏 | はい。稀有な存在ですけどね(笑) |
プラットフォームの管理体制はどうあるべきか
| 千葉氏 | プラットフォームについては、インフラなどを管理するIT部門と、オウンドサイトを管理するデジタル部門など、複数の部門が管理している製薬企業も多いですが、マーケ部門として違和感はありませんか? |
|---|---|
| フォルツァ氏 |
そうですね。僕の会社もデジタルとIT部門両方に同じような役割がありますが、厳密には違う仕事を受け持っているので、とくに違和感はないです。 部署の役割としてはデジタル部門がCRMを管理したほうがよいのですが、プランニング、運用、ビジネストランスレーター的な役割の方、IT部門、と複数の部門が関わっていて、これは仕方ないのかなぁと思っています。例えば、「Veevaのここが使いづらい」みたいな声に対応する場合は、デジタル部門のCRM担当が窓口になって、IT部門と調整するという役割分担です。 |
| 千葉氏 | DMPなどのデータ周りはどうでしょうか。 |
| フォルツァ氏 | DMP、CDPもCRMと同様のやり方がいいと思います。僕の会社ではまだCDPは入れていないんですが、みなさん使いこなせているんでしょうか。 |
| 千葉氏 | うーん…なんとも言えないですが、うまく活用されているところもあります。ですが、過度な機能を持ったまま導入するケースが多い。 |
| フォルツァ氏 | トゥーマッチなんですよね。SFMCなんかもすごくたくさんの機能があるけど、実際に使う機能はごく一部です。キャンペーンを回す、といったシンプルな機能をマーケティングが使えるようになるのが理想的じゃないかな。 |
データ分析を生かすために必要なこととは?
| 千葉氏 |
続いて「データ」についてお話を伺います。 データ分析結果の解釈部分はどこが担当するのがよいでしょうか? |
|---|---|
| フォルツァ氏 | 最初はブランドマーケティング。だけど、解釈はお互いでやっていけばいいんじゃないかな。基本的にはブランドマーケターが解きたい問題があって、「こういう分析をしてください」とデータ分析担当者にあげるのが基本。 |
| 千葉氏 | データ分析担当者に期待することはどんな点でしょうか。 |
| フォルツァ氏 | 彼らに求めたいのは、「データを見ていたら何か面白そうなのが出てきた。これってこんな解釈できませんか?」みたいな、プロアクティブにデータを基にした仮説を作ってくれること。ビジネストランスレーター的な役割を担って欲しい。 |
| 千葉氏 | マーケターはプランニングの中で必要なことを考え、データ分析担当がデータマイニングを担当する。 |
| フォルツァ氏 | はい。データ分析もデジタル周り、セールス周り、、と様々ですが、データ分析はセントラルにすべきと思っています。 |
| 千葉氏 | それぞれ自分たちで分析している会社さんもありますね。 |
| フォルツァ氏 |
それぞれで分析するのはあんまりよくないんですよね。例えばデジタル部分をデジタル部門が分析すると、そこだけが独り歩きしちゃう……。データ分析はセントラルにして、ブランドマーケターとやりとりするのが、僕は理想的だと思う。 結局顧客から見た時にはデジタルって1つの要素でしかない。データは一元化して、全方位的に見た上での解釈が大事。 |
| 千葉氏 | 一元化したとしても、例えばm3のWeb講演会視聴データのノイズを除去するために、デジタル側や営業、マーケターのインプットが必要、といった点は残りますよね。 |
| フォルツァ氏 | はい。ただ、「データはこの人」という形に基本的にはした方がいい。今は多岐にわたって分析していることも多いし、それぞれがデータ分析をしていくと、わけがわからなくなるし誤解も生まれやすい。 |
| 千葉氏 | それぞれの部門でデータ分析を行うと、自部門にいいようなデータを出しがち、というお話を伺ったことがあります。 |
| フォルツァ氏 |
確かにそれもある。そういう意味では、起点はブランドマーケット側。マーケターが最終的に意思決定をし、MRもしくはデジタルチームに指示を出す。 だからブランドマーケティング側がしっかりしておかないといけない。言うは易しですけど(笑) |
| 千葉氏 | 少し話が変わりますが、以前、マーケ担当者から「コストをかけてデータ分析したのに、当たり前の結果しか出てこなかった」という不満を伺ったことがあります。 |
| フォルツァ氏 |
それは、その担当者の問いの立て方が悪い。 マーケターがイシューを立てられない。データ分析をする前に、「解くべき問題は何なのか」を分かっていない。その状態でデータ分析したら当たり前の結果しかでてこないです。 |
| 千葉氏 |
そうなんですよね。まず仮説を立てて、より確からしい仮説を組み立てていく必要があるのに、そこが抜け落ちている。 また、データサイエンティストが提示する分析内容をマーケ担当者が理解していなくて、そこにギャップが生まれているケースもあると思います。 「データがあれば何かすごい示唆が得られるだろう」と期待する方も多いんですが、実際はそんなことないじゃないですか。どうしたら理解してもらえるんでしょうか? |
| フォルツァ氏 | 実はそれ以前の問題で、ファンダメンタルな力がないんですよ。考える力とか、学ぶ力とか。 |
| 千葉氏 | 低下してきているのかもしれないですね。 |
| フォルツァ氏 |
結局突き詰めれば、何を解けばいいのか、というイシュー設定ができるかどうかってファンダメンタルスキルじゃないですか。「とりあえずリサーチやって」という人に、仮説を聞くと出てこない。RFPが書けない。 それもつまるところは教育の問題なんですけどね。 |
| 千葉氏 | 「チェンジマネジメント」ですね。では、次回はそのお話を伺います。 |
つづきます。
(文:松原)
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