ラボの休憩室 Vol.14 製薬デジマ部門と営業部門とのギャップはなぜ生まれる?
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年9月
Meiji Seika ファルマ(株)勤務。20年以上にわたり、社内SE、MR、プロダクトマネージャー、デジタルマーケティング、支店の営業推進と、多様な部門に従事。また、「音で聴く日刊薬業」のパーソナリティ、「note」でAIやマーケティングに関する情報発信を担当していた経験を持つ。 ■萩野 月(仮)
DM白書ラボ フェロー。
| 萩野氏 | 「ラボの休憩室」は、製薬業界の方にいろんな視点でお話を伺うコーナーで、今回はMeiji Seika ファルマ 西岡さんに登場していただきます。今日はよろしくお願いします。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
こちらこそ、よろしくお願いします。 まずは、日夜を問わず、業界の発展のためにオムニチャネル戦略の実現に向けて御尽力され、崇高な志を持って取り組まれていらっしゃる皆様方に、心より深甚なる感謝の意を表します。 このような機会をいただきお借りして、厚く御礼申し上げます。 |
| 萩野氏 | 西岡さんのプロフィールを簡単にお話いただけますでしょうか。 |
| 西岡氏 | わたしは、システムエンジニア、医薬情報担当者、プロダクトマネージャー、デジタルマーケティング、さらには医薬情報担当者の推進業務まで、様々な職務を経験させていただき、医療メディアにおいて情報発信に携わってまいりました。 |
| 萩野氏 | ありがとうございます。西岡さんのようなこのような経歴をお持ちの方は非常に稀ではないかと思いまして、今回このコーナーへの参加をお願いしました。 |
| 西岡氏 |
医療用医薬品メーカーの勤務者としては稀有であるとのことから、今回このような貴重な機会を賜りました次第でございます。 デジマ部門にいたときには、「どうやったらオムニチャネルが進むんだろう?」ということに頭を悩ませていまして、多くの製薬メーカーさんともそんな話をしていました。今もオムニチャネル戦略の実現のために、高い志を持って取り組まれている方もたくさんいらっしゃると思います。 今回ここで申し上げますのは、あくまでもわたし個人の浅学菲才な見解であり、日々献身的に御活躍されている皆様方のお役に立てるかどうかは甚だ恐縮ではございます。非才を顧みず、また、現在は門外漢の身でありながら、誠に僭越ながらわたしなりの所感を述べさせていただければ幸いに存じます。 |
営業部門とデジマ部門のギャップはなぜ生まれる?
| 萩野氏 | 西岡さんは本社のデジマ部門を経て、現在は支店の営業推進部門にいらっしゃいますが、デジタルマーケティングに対する両部部門の温度差やギャップをどうお考えですか? |
|---|---|
| 西岡氏 | 多少専門職になってしまうので致し方ない部分が大きいのかなと思います。これはどちらが正しいという話ではなく、どちらも会社への貢献を追求しているからこそ生じるギャップだと思っています。 |
| 萩野氏 | それはどういうことでしょうか? |
| 西岡氏 |
視点の違いが大きいのではないかと思います。 あくまでも「主」という観点ですと、営業部門におけるMRの使命は、医薬品の適正な使用を推進し、医療に貢献していくことです。その中でMRは今期の売上達成という役割があります。 そうしますと目の前の医療貢献という「今に集中した活動」、デジマ部門は顧客情報を獲得して活用することで営業部門がより活動しやすい「土壌づくりの活動」に重きを置いています。 営業部門の「今に集中した活動」は、もちろん売上であり、目の前の処方を得るための活動で、訪問や処方提案などがこれに当たります。 一方で、「土壌づくりの活動」は、今は処方していなくても、何かをきっかけに自社の薬剤を選んでもらえるよう、会社としての医師との関係作りやそのための環境整備といった将来的な価値を築くための活動です。デジマ部門はここに注力している企業が多いと思います。 |
| 萩野氏 | 例えば、デジマ部門がMRの方にオウンドサイトの医師会員を増やす取り組みへの協力をお願いしてもなかなか進まないのは、営業現場では「今に集中した活動」が優先されているということですね。 |
| 西岡氏 | そうですね。日々の売上目標を追う立場からすれば、まず「それが処方にどうつながるのか?」という視点になるのは当然だと思います。 |
| 萩野氏 | それぞれが正しい活動をしているからこそのギャップとなると、なかなか根が深そうですね……。 |
| 西岡氏 | 一見そう思いますよね。 |
営業部門VSデジマ部門ではない
| 西岡氏 | ですけど、実は営業活動も、「今に集中した活動」と「土壌づくりの活動」の両方で成り立っていると思いませんか? |
|---|---|
| 萩野氏 |
確かにそうかもしれませんね。 例えば、昔の担当者がずっと先生に顔を出していて、何年もかけて信頼を積み重ねてきたからこそ、会社として信頼される、みたいなことは営業現場でも起きていますよね。 |
| 西岡氏 |
仰る通りで、今の自分が成果を出せている裏には、実は過去の担当者、チーム、会社による土壌づくりの活動が影響していることが多く、知らず知らずのうちに皆恩恵を受けているのではないでしょうか。 担当変更で初めて訪問したクリニックでもすぐに通してもらえるのも、「御社は今まで良くしてくれてきたから、御社のMRさんであればどうぞ」というクリニック側の会社に対する信頼があるからで、MRであれば誰しもこういった恩恵は受けていると思いますし、そのMR自身の日々の活動も、こういった「土壌づくりの活動」につながっていると思います。 |
| 萩野氏 | 確かにわたし自身を振り返っても、過去の担当者が築いた顧客との関係性に助けられた、ということは多々あります。 |
| 西岡氏 | デジタルが関わる事例をひとつ紹介すると、メールをよく見てくれている先生がいらっしゃったので理由を調べたところ、実は前任の方がメールを活用したコミュニケーションを頑張った結果、その先生が情報収集でメールを積極的に活用するようになっていたんです。 |
| 萩野氏 | それは興味深い事例です。前任の方が作り上げた情報提供環境が、後任の方にもしっかり引き継がれた長期的な成果ですね。 |
| 西岡氏 | はい。「今に集中した活動」VS「土壌づくりの活動」で捉えてしまうとどうしてもギャップが生まれてしまいますけど、営業においても「土壌づくりの活動」は必要ですし、デジマ部門が活動できているのは「今に集中した活動」の結果である会社の利益があってこそです。そうやって俯瞰的に見ることができれば、本来対立構造は生まれないと思います。 |
| 萩野氏 | 確かにそうですね。ただ、現実問題として、両方の視点を持って日々活動するのはなかなか難しいですよね。 |
| 西岡氏 | そうかもしれません。 |
医師との関係性を築く、「土壌づくりの活動」はどう進める?
| 西岡氏 |
あくまでも案ですが、「土壌づくりの活動」での行動を評価できればいいのかなって思います。 例えば担当エリアのターゲット医師が仮に100人いたとして、会員制サイトに登録する医師を50人まで増やしました、よくサイトを見てくれる医師を10人から20人に増やしました、というような、売上とは異なる評価軸があればいいんじゃないかなと。評価に占めるウェイトをどの程度にするかが難しいところだと思いますけど。 |
|---|---|
| 萩野氏 | 確かに適正な評価は難しいですよね。実際にデジタル活動を評価に組み込んでいる企業のMRの方々からは、「労力と手間が見合っていない」あるいは「評価における比率が低い」といった声が聞かれることもあり、多くの企業が試行錯誤されている段階なのだという印象を受けます。 |
| 西岡氏 |
そうかもしれませんね。それから、この「土壌づくりの活動」について、「会社にこういったベネフィットをもたらしています。だからこう評価します。」といった背景をしっかり伝えていく必要もあると思います。 納得しないまま評価に組み込まれても、「目の前の処方数を増やすことの方が優先順位は高いのに、なぜサイトの紹介をしないといけないの?」とMRが不満を感じるかもしれません。 |
| 萩野氏 | 納得できてない状態だと、評価のために「サイトは見なくてもいいので登録だけしてください!」みたいなお願いをするMRが出てきてしまいますしね……。 |
| 西岡氏 |
そうですね。例えば、サイトの意義が共有されないまま会員登録数だけが評価指標になると、登録はされても実際の閲覧にはつながらない、といった「形骸化」が起きてしまう可能性も考えられます。本来の目的を見失ってしまうのは、非常にもったいないですよね。 そういったことが起こらないためには、やはり「土壌づくりの活動」の意義をきちんと伝え、その上で適切に評価することが必要なんじゃないでしょうか。 |
「土壌づくりの活動」をどう評価するか
| 萩野氏 | 「土壌づくりの活動」を評価するにはどうしたらいいんでしょうか。 |
|---|---|
| 西岡氏 | 製薬業界のデジタルマーケティングは、他業界のBtoCと違ってタッチポイントが分かりづらく、効果測定が非常に難しいと思います。他業界であれば、Webサイトでの成約率を指すCVR(コンバージョンレート)や顧客獲得単価と1顧客あたりの売上とLTV(Life Time Value)といった明確な指標で効果を測定しやすいのですけど、医療用医薬品の場合はなかなか簡単には表すことができません。 |
| 萩野氏 | 確かに、他業界だと会員登録、メルマガ登録、開封、クリック、カートに入れる、リピート、口コミ……コンバージョンポイントが明白ですよね。 |
| 西岡氏 |
薬剤の場合は“いつ処方したのかわからない”、“どれがトリガーになって処方したのかわからない。”“単に前の先生が使っていたから……”、ということもあります。デジタルマーケティングの効果測定がとてもしにくいのです。 例えば、デジタル部門ではMR未リーチの先生をすべてカバーします。その先生方がサイトを見てくれてサイトのリピーターになる。その後でMRにバトンタッチする。 つまり、デジタル部門の役割は「MRが会えていない先生に、MRが会えるようにすること」で、このバトンタッチした数を評価指標にする、というようにデジタルの役割と指標を明確にしていく必要があると思っています。これはあくまでも一例で、ほかにもいくつかの指標はあると思います。 |
| 萩野氏 | 地上で戦えるところはMR、空中戦はデジタル、と役割を分けて、評価指標を明確にするということですね。 |
| 西岡氏 | 仰る通りかなと思います。加えて注意したいのは、その地上戦も空中戦も効かないところがある可能性もあるということです。 |
| 萩野氏 | あぁ。確かに、例えば半分はMR、半分はデジタルで、と言われても実際には難しいケースもありますよね。 |
| 西岡氏 | それと、MSさんの力も大切です。医薬品業界は卸業者の影響力が大きいのでそういった観点も含めて考えないといけないと思います。もしかしたら、実はデジタルでカバーできる部分ってわたしたちの想像より少ないかもしれません。 |
| 萩野氏 | 正しく役割を定義して、評価指標を明確にできれば、デジマ部門、営業部門が互いに「今に集中した活動」「土壌づくりの活動」2つの視点で活動できる未来に近づくわけですね。 |
| 西岡氏 | 仰る通りです。難しい問題ですけど、取り組まないといけないと思っています。 |
次回は営業現場の視点から、MRのデジタル活用が進まない理由はどこにあるのか?についてお話いただきます。
(文:松原)


