ラボの休憩室 Vol.13 デジタル担当がデジタルを軽視している!?
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年9月
大手製薬企業、外資系製薬企業にてMRを10年以上経験後、営業部門(MR、マネージャー)の人材育成の担当者としてソフトスキル・オムニチャネルトレーニング、ローンチ時の研修に5年間従事、その後、DX推進者として、本社間、本社-MR間のコミュニケーションのハブとなってプロジェクトマネジメント、チェンジマネジメントを担当。 ■千葉 理洋(仮名)
DM白書ラボ フェロー
| 千葉氏 | これまで、データ活用やMR、本社、リーダーが持つべきマインドセットについてお話を伺ってきました。今日は、その中ででた疑問についてお話を伺いたいと思います。 |
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忙しいという人ほどデジタルを使っていない!?
| 千葉氏 | 「ラボの休憩室 Vol.11オムニチャネル時代のMRに必要なマインドセット」※1で話がでたのですが、製薬業界の方って、CXを重要視していない、デジタルマーケティング担当なのにデジタルマーケティングについてあまりよく知らない、という方も結構いらっしゃいます。他業界ではあまりないことだと思うのですが、担当なのに「よく知らない」ということがあるのはどうしてだと思いますか? |
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| セーダス氏 |
たしかにそういう方もいらっしゃいますね。 そういう方って「忙しい」ことを理由にされることがよくあるのですが、最近は「忙しい、という人ほどデジタルとか生成AIを使ってないんじゃないか」疑惑を持っています。 |
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| 千葉氏 | (!!) |
| セーダス氏 |
「忙しい」っていうけど、実は無駄なことやってるんじゃないか?他の方法でできるのに、時間のかかるプロセスを踏んでいるんじゃないか?それってデジタルで解決できるんじゃないか?って思うんですよね、実際わたしは生成AIのおかげで、これまで1週間以上かけて作っていた研修動画を1日で作れるようになりました。 今までのロールや仕事の進め方に凝り固まってしまっていんじゃないかなぁ。つまり、ラーニングアジリティ(Learning Agility)※1が低い。 |
- ※1 変化の激しい状況において、新しい経験から素早く学び、その学びを未知の環境や課題に応用して成果を出せる能力
| 千葉氏 | お厳しい(笑)。実際、どのくらい忙しいんでしょうか。 |
|---|---|
| セーダス氏 | 実際に現場にでているマーケは本当に時間がないですし、組織の都合で「これ、何人分の仕事ですか?」という仕事を1人で受け持っている人もいます。ただ、「ほんとに忙しいの?」という人も実際にはいます(笑) |
デジタルマーケティング担当がデジタルを馬鹿にしている!?
| 千葉氏 | デジタルマーケティング担当がデジタルマーケティングをよく知らない、というのはどうしてなんでしょうね。 |
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| セーダス氏 |
わたしはちょっと思っていることがあって……。 デジタルマーケティング担当がデジタルを馬鹿にしている気がします。 |
| 千葉氏 |
え~~!あぁ~~でもそういうこともあるかもしれません……。 デジタルに関わる前って、「所詮デジタルなんて」と少なからず思っている気がします。で、実際にデジタルに関わった時に、「あれ?デジタルってすごいじゃん!」っていう、ポジティブな裏切りを経験できていないのかもしれません。 |
| セーダス氏 |
過渡期なんでしょうね。オムニチャネル革命はまだ起きてないのかなと。 デジタルがベストチョイスだって実感できるところまで到達していない。デジタルで処方の行動変容を起こせる割合がもっと高くなったら……と思いますが、そこはまだ変っていない。 マーケティング側は自分の戦略はベストチョイスだと信じて実行しているけど、デジタル側はそうではないんじゃないかな。 |
“A”がなければ生まれない“T” ・”U”
| 千葉氏 | ジャーニー上の行動変容への影響度を可視化しないと、「デジタルは効果がない」と思われたままなのかもしれないですね。 |
|---|---|
| セーダス氏 | そうですね。ジャーニーについては、私、1つ言いたいことがあります。例えばステージをAMTUL※2とした場合、すべてのステージの行動変容が、それぞれものすごく大事だと思うんです。売上に直結する「“T”(Trial)」、「”U” (Usage)」につながったのはどのチャネルなのか?」ということにどうしても注目しがちです。ですが、“A”(Awareness)がなければ“M”(Memory)もない。“A”(Awareness)からのステージを駆け上がってこそ“T”や”U”のはずなんです。 |
- ※2 認知(Awareness)、記憶(Memory)、試用(Trial)、使用(Usage)、愛用(Loyalty)の5つの段階で消費者の長期的な購買決定プロセスを説明するマーケティングモデル
| 千葉氏 | たしかに、プロセスがあってこその結果ですね。 |
|---|---|
| セーダス氏 | 結果だけを評価するんじゃなくて、どの行動も、ゴールに向けた1つのプロセスで、同じ重みで価値があるんです。AMTULの認知も、記憶も、試用も、それぞれが大事なんだっていう意識は常に持っていたいです。このマインドが広がれば、デジタルへの取り組み度合いも変わってくると思っています。 |
| 千葉氏 | たしかに。各ステージにおける行動変更の重要性が浸透すれば、デジタルの評価も変わってきそうですね。Tの部分だけで他のチャネルとデジタルを比較すると、どうしても弱いですから。 |
実績やスキルだけで採用判断していませんか?
| 千葉氏 | 今までトレーニングのお話を色々伺いましたが、人という観点では、採用もトレーニングと同じくらい重要だと思うんですよね。この点、セーダスさんはどうお考えですか。 |
|---|---|
| セーダス氏 | あとからトレーニングで補っていける部分と、そうではない部分、変えることの難しい個人のコアな部分を見極められると、良い採用ができると思います。実際、私は採用にもトレーニングにも関わったので、一見マイナスに見える部分でも、“これはトレーニングでどうにかなるな”という判断ができました。採用時の見極めポイントも、その人の意志や価値観に重きを置きました。 |
| 千葉氏 | なるほど。採用って、どうしてもその人のハードスキルの見極めに目がいってしまいますが、現場が欲しい人って、そこよりもソフトスキルやマインドセットですもんね。 |
| セーダス氏 |
そうなんです。ハードスキルはあとから補うことができるんです。 昔はコンピテンシー(行動特性)面談といって、過去の具体的な行動やエピソードを深掘りして質問する面接手法を取っていましたが、この方法は行動ベースで判断するためハード面しか見えてきませんでした。 ですので、今は「ソースオブエナジー」※3という考え方に沿って、「使命感」と「劣等感」を掘り下げて採用面談を行っています。本人の実績や行動、スキルではなく、感情を見ていく採用が必要だと思っています。 まだ感覚論の部分が大きいので、言語化していきたいと思ってます。 |
| 千葉氏 | やはり、言語化ですね!私も今日のセーダスさんとのお話を言語化して記事化しますので、原稿ができたらぜひレビューをお願いします(笑) |
- ※3 「ソース・オブ・エナジー」とは、小野壮彦氏の著書『人を選ぶ技術』で紹介されている、人の精神性の根源やエネルギーの源泉を指す言葉です。具体的には、個人の「使命感」や、成長の原動力となる「劣等感」などが、このソース・オブ・エナジーを構成するとされています。これは、人が「経験・知識・スキル」「コンピテンシー」「ポテンシャル」のさらに深い階層にある、見えにくく変わりにくい部分であり、その人の行動や人生を形作る上で非常に重要な要素です
セーダス氏とのお話はいったんこちらで終了です。
次回は、製薬デジマ、営業推進と複数の部門でのご経験をお持ちの担当者に登場いただきます。
(文:松原)





