ラボの休憩室 Vol.7 デジタル推進体制づくりで大切なこととは
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年8月
某製薬企業のDx推進担当。20年以上にわたり、ヘルスケア業界で営業、マーケティング、IT、Dxの多分野に従事。これまでの経験を通じて、普段感じていることを飾らずにお話いただきます。 ■千葉 理洋(仮名)
DM白書ラボ フェロー
推進体制はどうあるべきか?
| 千葉氏 | Vol.6では、いかに他部門の理解を得ていくか?という点についてお話を伺いました※1が、今回は実際に推進していくための体制はどうあるべきか?についてお話を伺いたいと思います。 |
|---|---|
| アリキキ氏 | よろしくお願いします。 |
| アリキキ氏 | 推進のためには、まず、デジタルマーケティング部門のリーダーに、その部門を率いていくだけのデジタルマーケティングの経験値があることがすごく大切だと思っています。本気でやるなら社外から採用する。採用といっても面接官にそのスキルセットがなかったら判断できないので、人脈で引っ張ることも必要かなと思います。 |
|---|---|
| 千葉氏 | あ!そこは盲点でした。たしかに、「組織はリーダーの器以上にはならない」と言いますもんね。 |
| アリキキ氏 | 加えて、作っていきたい未来像を持っていること。目指すゴールが明確であり、ゴールに向かうための意志があるのか。それがないと、「そもそもどこに行けばいいの?」って話で、推進なんかできるわけがないんです。 |
| 千葉氏 | リーダーがビジョンというか部の方針をしっかり持って、体制を作ることが重要なんですね。 |
| アリキキ氏 | はい。それと、部門の業務範囲をクリアにしておくことも大切です。「デジタル」について部分的にしか期待されていないケースもあります。マルチチャネルなのか、オムニチャネルなのか。業務範囲がクリアでないと、不要な取り組みをしたり、逆に必要なことが抜けていたりして後から責任論に発展することもあります。 |
| 千葉氏 | 確かに「デジタル」の指すものがふんわりしているケースはよくあります。 |
| アリキキ氏 | マーケ部門、デジタル部門の両ヘッドが同じ方向を向いていることも大事です。ここができていないと、調整の負担が全部チームメンバーに行ってしまう。実際現場はすごく苦労しています。 |
| 千葉氏 | マーケ、デジタルの意見が相違する場合は結果的にマーケ部門の判断が優先されることが多いんでしょうか。 |
| アリキキ氏 | はい。マーケティング活動はマーケティング部門が主体なので。 |
デジタル推進には、マネジメント層の意識改革が必要
| アリキキ氏 | シニアマネジメントの意識改革が必要だと考えています。短期間で成果を求めないこと。「1年やってどうだったの?うまくいってないじゃないか。」ってよく言われますが、少なくとも2~3年は予算も含めてリソースを充てるべきだと思っています。 |
|---|---|
| 千葉氏 | そうですね。 |
| アリキキ氏 | そこはちゃんと待って欲しい。会社としてDXを推進していくという覚悟を持って欲しい。例えば、「他社と差別化したい」と言いながら他社事例がないとやらないとかね。 |
| 千葉氏 | それではゾロ新止まりですね(笑)。 |
| アリキキ氏 | そう。それから、新しいチャレンジに対して、会社が評価指標を設定しておくべきと思っています。チャレンジして失敗したらマイナス評価になるなら、チャレンジできない。 |
人が変わればゼロに戻る
| 千葉氏 | 推進体制において大事なのはリーダー、ということでしょうか。 |
|---|---|
| アリキキ氏 | そうですね。でも全般的に勉強不足というか。 |
| 千葉氏 | それは、デジタル側が?マーケや営業側が?でしょうか。 |
| アリキキ氏 | 両方です。インプットが足らないと感じてます。同時に、人を育てられていない、ということもあると思います。例えば若手のMR経験者が本社に来て、プロマネに近いことをやりました、で、社内公募でデジタルに来ました、みたいなかんじで結構人の入れ替わりが多い。人を育てられていないし、育ったら違うところへ行ってしまったり。 |
| 千葉氏 | 確かに。 |
| アリキキ氏 | プロマネも入れ替わっていく。そして人が入れ替わるたびに全部リセットされてしまう。 |
| 千葉氏 | そういえば、MRやマーケには研修がありますが、製薬デジマ向けの教育体制って整ってないですね。 |
| アリキキ氏 | ないですね。 |
| 千葉氏 | 他業界のデジマの知識がそのまま使えない、という特殊な業界なのに、全部自学自習ですよね。教育体制が必要なのかもしれない。ただ、教育する側も業界知識とデジタル知識を兼ね備える必要があるので難しそうですね。 |
| アリキキ氏 | そういう環境が整うまでは、リーダーがしっかり引っ張っていくしかないと思います。なかなか“デジタルチャネル推進マニュアル“みたいなドキュメントに落とすことが難しいですよね。結局、人を育てていくしかないっていう。 |
| 千葉氏 | そういうことがいろんな会社でずっと繰り返されているんでしょうね。担当者が変わるたびに、一旦退化していく…というような感覚があります。 |
| アリキキ氏 | ドキュメントがあっても、そこに「思い」は絶対引き継がれない。無くなっちゃうんです。 |
| 千葉氏 | スキルの継承と同じように、「思い」を継承していくことが必要ということですね。 |
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次回は、ラボの休憩室 Vol.8 デジタル担当者に大切なこととは をお話しします。
(文:松原)



