ラボの休憩室 Vol.3 MR不要論を考える
取材年月:2025年4月
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
某製薬企業のDx推進担当。20年以上にわたり、ヘルスケア業界で営業、マーケティング、IT、Dxの多分野に従事。これまでの経験を通じて、普段感じていることを飾らずにお話いただきます。 ■千葉 理洋(仮)
DM白書ラボ フェロー。
目次
オムニチャネルが進めばMRはいらなくなるのか
千葉氏 |
アリキキさん、引き続きよろしくお願いします。前回まではオムニチャネルとデータの扱いについてお話してきました。今回は、前回までの話※1でもちょっとでてきていた「オムニチャネルにおけるMRの役割」についてお話できればと思います。 オムニチャネルが進んでいくとMRはいらなくなるんじゃないか?とおっしゃる方が結構いらっしゃいます。データが蓄積されて最適な情報提供がされて、じゃあ、MRはいらなくなるんじゃないかっていう。アリキキさんは製薬企業に長年携わってきて、今後MRは不要になってくると思いますか? |
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アリキキ氏 |
まあ、そういう話もよく耳にしますよね。どんどんできることがなくなってきたよねとか。 でもMRが不要になるってことはないんじゃないかな。確かに最近スペシャリティ領域とか希少疾患とかMSLのニーズが圧倒的に高いっていうのはあるけど、でもMRってもともとリレーションシップの構築に長けた人達。その顧客、その地域のことを一番知ってるわけでしょう。そこはMRが一番動けるはず。生成AIが出てこようが、MRのすることがなくなることはないと思いますよ。 |
MRはチャネルの1つとして機能してほしい
千葉氏 | 先生とお話していると、とにかく学術レベルが高い人がいい、という声もあります※2。 |
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アリキキ氏 | 学術担当レベルみたいな? |
千葉氏 | そうです、そうです。わざと先生がいじわるでCTDやインタビューフォームの細かい部分の話を突っ込んで聞いたら、その場で的確に返してきて参った、っておっしゃっていた先生もいました。 |
アリキキ氏 |
たしかにインタビューフォームやCTDの内容はしゃべってもいいけど、そこまでこなすのはハードルが高いよね。 ただ、そうやって考えると、言葉は悪いかもしれないけど、情報提供できる範囲が制限されて救われた部分もあるんじゃないかな。なんかあったらMSLへって、できてしまうし。 MRには、公開されている情報に関しては、ちゃんと理解しておいてほしい。だってそれができなかったらオムニチャネルのチャネルの1つとしても機能してないよね?って話です。 |
千葉氏 |
オムニチャネルで考えると、たしかにそうですね。 前回の話ででた、先生がちゃんと見たのか、なんとなく見たのかっていう温度感の判断は現場のMRが一番できると思います。やっぱり機械的に対応してしまうと温度感のようなゆらぎの部分ってわからない。現場からのフィードバックなりをしっかりしていくこともデータの精度を上げることにつながると思うんです。先日、現役MRさんにインタビューをしたのですが、ポイントのためにWeb講演会を見ている先生とそうでない先生は把握できているよ、とおっしゃってました。全てのMRさんがそうではないと思いますが、これって視聴データとリアルの会話の突き合わせができるからこそだと思いましたね。 |
- ※2 DM白書ラボ医師インタビュー 2025年8月以降更新予定
データだけを見て動くとアプローチに失敗する
アリキキ氏 |
そうそう、逆の話でこんなことがありました。この間、ある会社に資料請求したんですよね。そしたらすかさず電話がかかってきたの、その会社から。で、「今、資料請求いただきましたね?どんな課題があって資料請求いただきましたか?」って。 「いやいや、今課題を整理していて、御社の製品で何が解決できるかもホームページでは分からないから資料請求したんだよ。電話をかけるタイミング間違っているよ」って教えてあげました(笑)。「情報を引っ張ったから興味あるんだ!」と急いで電話かけてきて、結局アプローチ失敗してるよ、っていう。 |
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千葉氏 | ありますねー、そういうこと。 |
アリキキ氏 | この情報に接点を持った、だからこの情報すべてに対して興味があるんだ、っていう思い込みで。これって結局データだけ見てて、受け手の中身を見てない。 |
千葉氏 |
そこはチャネルが連携していないとわかんないですね。 データだけでわかる限界っていうのを正しく理解していくためにはMRが必要だし、MRに医師から情報を引き出しもらうことも必要になってくる。 |
目の前の医師の反応=医師の興味度合いではない
千葉氏 | ちょっと逆の話もありまして、先生が、MRの説明に興味を持ってもMRに深く聞かないっていう。 |
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アリキキ氏 | そうなんですね。それはどんな理由で? |
千葉氏 | MRに聞いてしまうと、あ、この先生興味があるって思われてぐいぐい来られちゃうから。だからMRが帰ったあとにこっそり調べる※3そうです。オウンドサイトにも情報があることを知っている先生には多そうな動きなんですが、これって、MRは「今回、先生に響かなかったな」って思っちゃいますよね。ただ、その後に先生のログデータを見て、「あれ、あの先生そっけなかったけど、オウンドサイトで確認してるじゃん」って、本当は興味あったんだっていうところまでたどり着けると思うんですよね。 |
アリキキ氏 | Veevaはタイムライン機能でそういうのがありますよね。ああいうのも活用してほしい。 |
千葉氏 | タイムラインで何をチェックしているのかを正しく把握するためには、そのチャネルで提供されている情報も把握しておく必要もありますが、それができるとデータがすごく意味を持ってきますよね。 |
アリキキ氏 | コンテンツにタグを付けているケースもありますよね。それがきれいにできていないところもあったりするけど。 |
千葉氏 | ただ、本気で処方を獲得したいMRだったら、タグがなくても自分でコンテンツを確認していると思うんですがどうでしょうか? |
アリキキ氏 | できるMRはそこまでやるでしょうね。ただ、実際にはみんながみんなそこまでしない。できる人はできるから、というところに甘んじちゃうとオムニチャネルってなんだっけ、何を解決するものだっけ?っていう。 |
千葉氏 | たしかに。あるべきMRに合わせてオムニチャネルを考えてしまうと、うまくいかなそうですね。 |
オムニチャネル時代のMRの姿って?
アリキキ氏 | そうなんです。デジタルはチャネルとして画一的だけど、人のチャネルって人によって差が大きい。同じような情報量を持っていても、相手によって合う合わないもあるし、コミュニケーション力の違いもある。 |
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千葉氏 | コミュニケーション力に自信がないMRは、担当医師へのオムニチャネルでの情報提供シナリオ作りに力点をおき、対面での接触を減らしてオムニチャネルを実現するといったこともアリかもですね。 |
アリキキ氏 | そういうのもアリな気がします。ただ、そういうシナリオ作りをするにしても人員削減が進んでいるからなぁ……。 |
千葉氏 | ドクターと相性のいいMRをマッチングしてくれるAIとかはどうです? |
アリキキ氏 | リモートMRもエリアで担当が分かれているケースがあるけど、リモートであるメリットを生かして、全国から相性の良い先生を選んで担当できるといいですよね。こういったDXはわたしのメインミッションなので、これからどんどん進めていきたいですね。 |
(次回に続きます)
「ラボの休憩室」は、DM白書ラボの「エビデンスに基づいた情報提供」とは異なるお試し企画です。
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次回は、DM白書ラボの記事をどのように活用するか、実際の記事を見ながらお話しします。お楽しみに!(25年6月11日更新予定)
(文:松原)