ラボの休憩室 Vol.17 製薬デジタル担当者に必要な3つのスキルとキャリアの描き方
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年9月
Meiji Seika ファルマ(株)勤務。20年以上にわたり、社内SE、MR、プロダクトマネージャー、デジタルマーケティング、支店の営業推進と、多様な部門に従事。また、「音で聴く日刊薬業」のパーソナリティ、「note」でAIやマーケティングに関する情報発信を担当していた経験を持つ。 ■萩野 月(仮)
DM白書ラボ フェロー
さて、今回で4回目となりますが、皆様の日々の素晴らしいご活躍に、わたくし自身も多くの刺激をいただいております。
今回も僭越ながら、多様な現場を渡り歩いてきた者ならではの視点から、皆様の戦略推進のヒントとなりうる情報をお届けできればと考えております。一個人の見解ではございますが、どうぞ最後までお付き合いください。
デジタル担当者に必要な3つのことと評価指標
| 萩野氏 |
今回は、デジタル担当者のキャリアについてお願いします。 営業部門はMR、リーダー、所長、支店長、マーケ部門であれば製品担当、ブランドマネージャー、マーケ部長という分かりやすいキャリアパスがありますが、デジタル担当のキャリアパスってどういったものになるのでしょうか。また、デジタル担当者がステップアップしていくためには、どんなマインドセットやスキルが必要になるのか、といった点についてもお伺いさせてください。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
まず、デジタル担当者は大きく3つのことができる必要があると思っています。 1つ目はデジタルでどうしていくのかを考えられること、2つ目はMRによる情報提供をどうしていくのかを考えられること、最後に卸と連携した情報提供をどうしていくかを考えられることです。 この3つができると、戦略を考える上でとても貴重な存在になると思います。 |
| 萩野氏 |
なるほど。確かに前回※1、デジタル、MR、卸を合わせて役割を考えるというお話も出ましたね。今回は、3つの中でもデジタルの部分について深くお伺いさせてください。 まず、デジタル担当者の評価指標について西岡さんのご意見を伺いたいです。 以前、ある製薬企業のマーケティング担当者から、「デジタル部門も売上に対する評価指標を持ってくれたらもっとうまくコラボレーションできるのに」というお話を伺ったことがあります。確かに、売上に対する指標を持つことで、マーケティング担当者と同じ目線でデジタル施策の話ができるのでは?と思うのですが、いかがでしょうか。 |
| 西岡氏 |
仰る通り、売上に対する指標があることでマーケティング担当者と同じ目線でデジタル施策の話ができることはとても重要な点だと思います。 そのためには、部門としての評価を明確にする必要があると思います。例えば、オウンドサイトのROIを出すという話があったとします。もし、そこでROIが低いからといってオウンドサイトを無くしてしまうと、オウンドサイトはインフラに近いところがあるので、今度は企業として最低限の情報提供をしていないことになり、医療従事者が調べ物をしたいと思っていた時にその企業の公式のサイトがない場合、それは大きな信用問題になります。 つまり、オウンドサイトは処方に直結する以外に企業としてのブランディング、信用性などにも関与すると思います。そうなると単純にログと推定処方数といった単純計算ではなく、機会損失やマーケティング用語のカテゴリーエントリーポイント(CEPs)といった概念も必要かもしれません。 |
| 萩野氏 | 確かに。ROIが分からないからパソコンを回収します、なんてことをされたら仕事になりません(笑) |
| 西岡氏 | 数値で取れるものに限界はありますが、評価指標はPV、UUなどのアクセス数やアクティブ数になるのではないでしょうか。 |
| 萩野氏 | チャネルとしてのパフォーマンスを評価するということですね。ただ、その評価指標って妥当なんでしょうか。 |
| 西岡氏 | チャネルとしてのパフォーマンス指標は最低限で、その上で会社からデジタル部門へ求めていることと役割を明確にして、妥当な評価指標を設定する必要もあると思っています。 |
| 萩野氏 | なるほど。部門としての評価指標と役割が明確になり、それを各担当者の役割に分担し、それに沿った評価指標が設定されていく。こんな流れが必要ということですね。 |
デジタル担当者のキャリアパスとは
| 萩野氏 | 役割や評価指標が定まったとして、デジタル担当者のキャリアパスは、スペシャリストとジェネラリストのどちらの方向性が近いと思いますか。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
前者の方が相性はよいのではないかと思います。スペシャリストとしてどんどん専門性を高めていく、というのがイメージに近いです。デジタルって情報インフラ、顧客管理の話にもつながってくるんですよね。 データ基盤のあり方や効率的にデータ連携させる方法を考えて、その仕組みを構築することで戦略部門の工数削減につなげていく、という側面もあります。 |
| 萩野氏 | なるほど。最終的にスペシャリストに進んでいくとして、製薬企業のデジタル担当者って、どんな方が理想的なんでしょうか。 |
| 西岡氏 | スペシャリストを目指していくとなると、最低でも基本的なITリテラシーを持っていることが必要だと思います。 |
| 萩野氏 |
同じことを他のデジタル担当の方もおっしゃっていました。デジタルの部分については、製薬企業内のキャリアだけでは身に付けることが難しいかもしれませんね。業務から離れた場でデジタル/Webマーケティングを積極的に学ばれている方も多いですし、ここは頭が下がる思いです。 少し話は逸れますが、例えば他業界で実績のあるデジタルマーケティングの専門家が部門長として経営層へ報告や調整を行うことで、「専門家の判断であれば」と、よりスムーズに連携が進むこともあるかもしれませんね。 また、一般的に戦略コンサルタントのような外部の専門家の客観的な視点を借りることで、社内の意思決定が円滑に進むこともある、という話を聞いたことがあります。 |
| 西岡氏 | はい。確かに自分たちですべてを対応するとなると時間と労力がかかるのは事実ですので、そういう意味では、実績のあるプロフェッショナルと認められている方にお任せしたほうが、経験なども踏まえた意見が伝わりやすいかもしれませんね。 |
「とりあえずデジタル部門で」で、見過ごされてしまう問題って?
| 萩野氏 |
ただ、自社の目指すべきオムニチャネルの世界観がトップマネジメントレベルで決められても、そこから下に降りていくにつれて曖昧になって形骸化していくというお話もよく聞くんですよね。 これって、オムニチャネルやデジタルに関連した話は、組織間でのコンセンサス形成という重要なステップをすっ飛ばして、デジタル部門に降りてきてしまっているのではないでしょうか。「デジタルに関する課題は、まずデジタル部門へ」という判断になり、重要な共通認識が不十分になってしまいがちかもしれませんね。 |
|---|---|
| 西岡氏 | 確かに、デジタルを使って何を実現するかのコンセンサス形成をしないと、そういった事態に陥る可能性は否定できません。デジタルって何でもできそうで意外とできなかったり、できないと思っていたことが実はデジタルでできたりするので。 |
| 萩野氏 |
違う切り口でお話すると、“デジタル”とひとまとめにされがちですが、エクセルに詳しい人、データ構築のインフラ系に詳しい人、デジタルマーケティングに詳しい人など、得意分野は人それぞれですよね。 あらゆることが多少なりともデジタルと関わるこのご時世で、“デジタル”とついたらなんでも相談をされるのはしんどくないですか。 |
| 西岡氏 | でも、それは視点を変えると、デジタル部門が経営層から期待されているということかもしれませんよね。デジタル部門と他の部門とでは専門性が異なりますので、お互いの専門性を理解し、尊重し合あえる関係を築いていくことが、連携を深める上で大切だと感じます。 |
オムニチャネル実現に向けて
| 萩野氏 | でも、”デジタルに関する話題はまずデジタル部門へ“とひとまとめにされがち、という現象は時間が解決するんじゃないかと思っています。 |
|---|---|
| 西岡氏 | そう思われる理由を教えていただけますか? |
| 萩野氏 |
昔はIT部門もそんな感じでしたよね。IT部門って、企業内の情報システム基盤を支えるために多様な専門分野の方で構成されています。 ハードウェアやソフトウェアやの選定から保守を担う方、社内システム構築から運用を担う方、ネットワーク構築から運用を担う方、セキュリティ対応を担う方、また、それらのトラブル対応を担う方……。ひとくちに「IT部門」といっても色々なのに、昔はシステム関連というだけでひとまとめにされていました。 でも、今は一般的に「IT部門」への理解が深まり、それぞれ専門分野が異なるって理解している人が多いですよね。 |
| 西岡氏 | 確かに、そうかもしれませんね。デジタル担当者はもちろんのこと、関わる皆さんがデジタルへの理解を深めた上で、「デジタルを使って実現したいことを合意形成すること」が大切だと思います。 |
| 萩野氏 | 今回は、話しづらい点もあったかと思いますが、ざっくばらんなご意見をいただきありがとうございました。 |
| 西岡氏 |
こちらこそありがとうございました。繰り返しにはなりますが、今回は、非才を顧みず、また門外漢の身でありながら、私なりの所感を述べさせていただきました。 業界全体で課題を1つずつクリアして、オムニチャネル※2推進に向けてより良い方向へ動いていければ、と願っています。 |
- ※2 顧客が「いつでも」「どこでも」希望するサービスを受けることができる状態。
西岡氏とのお話はいったんこちらで終了です。本記事へのご意見・ご感想はアンケート欄よりお寄せください!
(文:松原)



