ラボの休憩室 Vol.16 プラットフォーム選定に必要なたった1つのこと
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年9月
Meiji Seika ファルマ(株)勤務。20年以上にわたり、社内SE、MR、プロダクトマネージャー、デジタルマーケティング、支店の営業推進と、多様な部門に従事。また、「音で聴く日刊薬業」のパーソナリティ、「note」でAIやマーケティングに関する情報発信を担当していた経験を持つ。 ■萩野 月(仮)
DM白書ラボ フェロー。
こうして回を重ねてお話させていただく機会をいただけますのも、ひとえに皆様が本コーナーに目を向けてくださるおかげと、深く感謝しております。
さて、これまでシステムと現場、双方の視点からお話ししてまいりましたが、今回はまた少し角度を変えて、僭越ながら私見を述べさせていただければと存じます。日々の業務に邁進される皆様にとって、何か1つでも新しい気づきに繋がれば幸いです。
デジタル環境を構築する際、必ずやらなければいけないことは?
| 萩野氏 |
デジタル環境を構築するためには、プラットフォーム、オウンド推進のパートナー企業、ソリューションなど、さまざまなシステムやベンダー選定を行う必要があります。西岡さんはデジタル部門のリーダーとしてさまざまな選定に関わってこられていますが、その選定ポイントについてお話を聞かせてください。 ここでいう「プラットフォーム」は、製薬オウンドサイトの基盤となる仕組みで、必要な機能を持つサービスとしてはコンテンツ管理(CMS)、会員管理(CRM)、メール配信システム、データ管理システム(DMP/CDP)などです。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
デジタル環境を構築する際のシステムやベンダー選定についてですね。 私が最も重要視していることは、技術的なスペック比較の前に、「事業目的の達成に本当に必要なものは何かを、社内の関係者全員ですり合わせること」。これに尽きます。 なぜなら、デジタル部門以外からは、「デジタルを使えば、簡単にすぐ実現できる」というイメージを持たれがちですが実際はそうではありません。ですが、この認識のズレが存在したままデジタル環境の構築を進めると、結果的に失敗しかねません。 「この労力をかけても必要ですか?」と聞くと「だったらいらない」ということもあるし、「仕組みを作ってでもやるべき」ということもあります。 ですけど、社内の関係者全員ですり合わせ、「自社にとって何が必要か?」を見据えることができれば、必要な機能も決まってきます。ですから、まずは、「どんな機能が必要で、どこまでお金をかけるべきか」、を関係者全員で合意する必要があります。 |
| 萩野氏 | 実際には各サービスをつなぎ合わせるという作業はかなりの労力がかかりますが、外からだとその工数は見えませんしね。 |
| 西岡氏 |
例えば、多機能で高性能なCMSは非常に魅力的ですけど、導入後に「実は搭載されている機能の多くを活用しきれていなかった」という事例もよく聞く話です。 大切なのは、他社の導入実績やツールの評判に流されるのではなく「自社の目的達成のために、どの機能が本当に必要なのか」をしっかり見極めることだと考えます。「みんなが使っているから」という理由だけで選ぶと、自社にとってはオーバースペックになってしまう、ということもあるかもしれません。 |
| 萩野氏 | オーバースペックだということが分かっているのに導入してしまう、というのは何か理由があるんでしょうか。 |
| 西岡氏 | 製薬業界って独特のルールがあって、その説明にコミュニケーションコストがかかります。そのコストを削減するために、どうしても製薬企業の導入実績を確認してしまいますし、実績があるものを導入してしまいがちになるのが実情です。 |
サービス、外部ソリューション選定時に必要なたった1つのこと
| 萩野氏 | オウンドサイトで必要な機能を搭載するために、会員管理機能やメール配信機能などの各サービスはどのように選定したらいいのでしょうか。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
サービス間の連動性が重要だと思います。会員管理機能とメール配信機能、サイトの閲覧履歴と……それぞれをつなぐことができること。今それをパッケージとして提案できるベンダーさんって少ないと思っています。 重視したいのは、個々のサービスが優れていることだけでなく、それらを連携させて全体最適の提案ができるかどうかではないかと思います。ベンダーさんによっては専門領域が分かれていることも多いのですが、例えばMCIさんのように、会員管理からメール、サイト閲覧履歴までを1つのパッケージとして提案していただけると、連携もスムーズで非常に助かります。それぞれのサービスが連携できることが大事なんです。 |
| 萩野氏 | サービス間の連携は皆さん苦労されていますね。 |
| 西岡氏 | 一つひとつのサービスが100点だったとしても、5つ導入して500点になるかというとそうではなく、サービス間の連携がうまくいっていないと350点でした、ということが起こり得ます。全部80点のサービスでも、相互に連携できれば、5つ合わせたときに400点になるかもしれません。 |
| 萩野氏 | 個々のサービスではなく、全体としてやりたいことができるかどうかが大切ということですね。 |
| 西岡氏 | はい。同様に、Web講演会や動画コンテンツの視聴ログといった外部ソリューションと、自社の会員情報をつなぐ場合にも連動性が大切です。「ターゲットの先生がこの部分を見ました」という、たったそれだけのことが必要なのに、連携していないと裏側ですごく労力がかかります。サービス間の連携がスムーズにできるかどうかが非常に大事だと思います。 |
オウンド推進パートナー選定のポイントって?
| 萩野氏 | 最後に、オウンド推進パートナー選定のポイントを教えてください。 |
|---|---|
| 西岡氏 | 同じような理由からですが、トータルにサポートしていただけるかどうか、という点が重要です。 |
| 萩野氏 | オウンド運営は、サイト構築、更新、コンテンツ管理、会員管理、メールマーケティング、Web講演会、MR連携、とさまざまなサービスやベンダーが関わりますよね。 |
| 西岡氏 |
はい。例えば「コンテンツを作ったからメール配信してください」とお願いするだけで、サイトへの掲載、プロモーションメールの作成、配信、MRへの案内、それから誰が何を閲覧したのかのレポーティングをしてくれる、それをもとに改修提案や改修もしてくれる……そういったトータルサポートができるベンダーが必要です。MCIさんにはその点すべてお任せできたので、大変ありがたかったです。 ベンダー個々に依頼をすると単純なコストの積み上げだけでは見落としてしまうリスクがあるのではないかと思います。 |
| 萩野氏 | お話を聞いていて、会員管理のベンダーからは会員管理の改善提案、CMSのベンダーからはCMSの改善提案が出てくることがあっても、デジタルマーケティングの視点での提案がされることってないんじゃないかなと思ったのですが、いかがでしょうか。 |
| 西岡氏 | 仰る通り、全体を俯瞰した提案をいただくのは、なかなか難しいのが実情です。各ベンダーさんはそれぞれの専門領域で素晴らしい提案をしてくださいます。そのうえで、それらを横断した戦略的な視点を持つパートナーがいらっしゃると、さらにデジタル推進の鍵になると感じています。 |
| 萩野氏 | 2012年に実施されたオウンドサイト「CNSチャネル」※1の全面スマホ対応も、製薬業界では一番早かったんじゃないでしょうか。 |
| 西岡氏 |
ありがとうございます。こういった新しい取り組みというのは、経営層の先進的な視点と熱い想いから成る「ブランドを立ち上げていくために必要だ!」という明確な目的を共有できていたこと、そして、トータルサポートしてくれるベンダーさんたちの協力があったからこそ、実現できたことだと思っています。 オムニチャネル推進のためには、会社としてデジタルに何をどこまで求めるのかという判断基準を作ることも大切ですが、同時に、その目標に向けて一緒に歩んでくれるパートナー企業も欠かせない存在だと感じています。 |
- ※1 Meiji Seika ファルマ株式会社 医療関係者向け情報サイト。現「Meiji Medical Net」
次回は、デジタル部門に必要な人材についてお話しいただきます。
(文:松原)


