ラボの休憩室 Vol.15 MRへデジタルの価値を伝えられていますか?
このコーナーでは、製薬業界のデジタルマーケティングに長年関わってきた方に登場いただき、ざっくばらんにお話していただきます。
なお、本記事に掲載されている意見は、参加者の個人的な見解に基づくものであり、参加者の所属団体や他の関係者の意見を反映するものではありません。読者の皆様は、内容をご自身の判断でご利用いただきますようお願い申し上げます。
取材年月 2025年9月
Meiji Seika ファルマ(株)勤務。20年以上にわたり、社内SE、MR、プロダクトマネージャー、デジタルマーケティング、支店の営業推進と、多様な部門に従事。また、「音で聴く日刊薬業」のパーソナリティ、「note」でAIやマーケティングに関する情報発信を担当していた経験を持つ。 ■萩野 月(仮)
DM白書ラボ フェロー。
前回は、私がこの場に立たせていただくに至った経緯と、システム開発からMR、メディア運営まで多様な職務を経験してきた背景についてからお話しさせていただきました。
今回も、その多角的な視点から皆様のオムニチャネル戦略推進の一助となるべく、私なりの考察を述べさせていただきます。第一線でご活躍の皆様の前では浅見の至りと存じますが、何卒ご容赦の上、お付き合いいただけますと幸いです。
医師の行動ログデータは、「緊急でもなく、重要でもない」?
| 萩野氏 |
前回は、「今に集中した活動」「土壌づくりの活動」の2軸での活動が大切ですが、「土壌づくりの活動」は営業現場では後回しになっている、というお話をしていただきました。 今回は、営業現場ではどのような問題があるのかについてお話を伺います。 |
|---|---|
| 西岡氏 |
まず、前回※1もお伝えした通り、営業部門は今期の売上達成という使命がありますので「今に集中した活動」が必要です。例えば、扱う製品領域が広い場合、必然的に担当する品目数や関連するWeb講演会なども多くなります。 そうなると、営業現場にはさまざまな部署から「あれを推進してほしい」「これをお願いしたい」といった依頼が日々集まってきますのでその対応に集中しなければなりません。また、地方では、都市部と比較してエリアのカバー範囲が広い、といった地理的な問題もあります。 |
| 萩野氏 | たとえば、デジマ部門が推奨するデジタル活用である、「1つのWeb講演会について、視聴前・視聴後のフォローをしていく」という方法は難しいのでしょうか? |
| 西岡氏 |
もちろん、ログを見て「先生、Web講演会ありがとうございました」とフォローすることは、ある意味で正しいアプローチです。しかし、それをすべてのケースで実践するのは、現実的には難しいところもあるのではないかと感じます。 なぜなら、実際にはログを利用した細かな対応は後回しで、医師から問い合わせがあった、送ったメールに返信があった、など医師のアクションがあったときの対応が主軸になってしまうからです。 |
| 萩野氏 | 物理的に手が回らないことに加えて、ログの重要性を実感する機会が少ない、という側面もあるかもしれませんね。 |
| 西岡氏 |
そうかもしれません。確かに、医師の行動ログから潜在的なニーズを読み解くことは可能ですが、それにはある程度の時間が必要です。 多忙な中でログデータの価値を一つひとつ紐解いていくのは、なかなかにハードルが高いので、結果的にログの重要性が見過ごされてしまう、という状況が生まれているのだと思います。 |
| 萩野氏 |
以前行った医師インタビューでは、薬剤切り替えを検討するときに、既存薬メーカーのサイトで薬剤情報を確認するとおっしゃっている方々もいらっしゃいました。 ということは、普段サイトに訪れない先生が突然既存薬のデータを見ていたら、切り替えを検討している可能性がある。これって、MRさんにとっては「重要であり、緊急でもある」情報ですよね。 |
| 西岡氏 |
それは重要な情報です。ただ、MRさんの立場からすると、そうした情報はログで確認することなく、日々の活動の中で既に把握している、というケースも少なくありません。 そのため、ログデータ全体が「既知の情報」と見なされ、結果としてその中に眠る重要な変化のサインが見過ごされてしまう、ということも起こり得るのではないでしょうか。 |
医師の行動ログから得られる医師ニーズは信頼できる?
| 西岡氏 |
医師の行動ログは重要であり、見るべきログも多いと思います。また、本当に興味があってそのコンテンツを見た「1」なのか、たまたまページを開いただけの「1」なのかどうかもわからない問題もあります。「1」のグラデーションは把握できかねます。 仮にサイトの導線がよくわからずたくさんクリックしてしまった多くの「1」が存在して、その学習データをもとにレコメンドされた場合、MRさんからすると、「この先生はたくさん見てくれているけどそれって本当に正しいの?」という疑問につながってしまうこともあります。 |
|---|---|
| 萩野氏 | MRさんの面談でも、一方的に10分話したもの、先生が食い気味で質問してきて1分だけ話したもの、同じ「ディテール=1」ですが先生の印象も、処方影響度も違いますよね。 |
| 西岡氏 |
玉石混交の「ディテール=1」を積み重ねて、処方増のためには月に●回ディテールが必要、という数値は出せます。 しかし、この数値はあくまでも平均値であり、個々に落とし込んだ時に因果関係も含めて意味のあるものなのかどうかを検討する必要があります。それと同じように、「ログ=1」の読み方も単純ではないと感じています。 |
| 萩野氏 |
ログからのレコメンドの文脈で、各社が推進しているオムニチャネルには、ユーザーの利便性の裏側に、「フィルターバブル」を起こしてしまう、という問題があります。 「フィルターバブル」とは、ユーザーのデジタル上の行動履歴をもとに、ユーザーが興味を持ちそうな情報ばかりを優先的に表示し、そうでない情報は遮断してしまうことを指しており、一般業界では結構問題になっています。 インタビューで先生にお話を伺うと、「興味領域の情報提供だけでは困る」という話も結構出てきます。オムニチャネル推進においては、ここもケアが必要だと思います。 医師に新たな気づきを与えたり、医師の潜在ニーズの掘り起こしを行ったり、という点は、双方向のコミュニケーションができるMRさんの強みを発揮できる部分ではないでしょうか。 |
| 西岡氏 | 仰る通り、医師の行動ログだけを見てレコメンドを行えば、フィルターバブル問題に直面すると思います。これは大手ショッピングサイトも同様ですよね。行動ログだけで先生方の潜在ニーズを顕在化させることは難しいと思います。 |
デジタルで医師ニーズを発見するためには?
| 萩野氏 |
デジタルでも医師ニーズを発見することはできるんじゃないかと思っていまして、例えば、クイズコンテンツは適しているんじゃないかと思っています。クイズにトライする動機って、「その問題の答えを知りたい」ということよりも、「クイズに答えたい」という部分が大きいので、その疾患や症状に興味がなくても参加してもらいやすいんです。 クイズが、医師が新たな発見をしたり、潜在ニーズに気づいたりというきっかけを作ることができると思います。 |
|---|---|
| 西岡氏 | クイズと回答結果のログは先生のニーズ発掘に効果がありそうです。 |
| 萩野氏 |
面白そうですね。 ログの読み取り方については、いろんなログをもとにしてワークショップをしてもいいかもしれないですね。 「この先生は薬剤切り替えを検討しているかもしれないから訪問してみたほうがいい」「この先生はWeb講演会を最後まで見ているからフォローのメールを送ってみたほうがいい」とか、ログの読み取り方とやるべきことがわかると、医師の行動ログには「緊急であり、重要である」ものが隠れているということが分かってもらえるんじゃないでしょうか。 |
次回は、デジタルマーケティングにおいて欠かせない環境構築を行うためのポイントをお話しいただきます。
(文:松原)
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