製薬企業が提供すべき医師にとっての理想的なオムニチャネル体験とは? Vol.1 3名の医師が語る効率性と「臨床のリアル」の両立
取材年月:2025年3月
製薬企業が取り組んでいるオムニチャネルは、医師にとって理想的なものなのでしょうか。 本インタビューでは、理想のオムニチャネルをテーマに医師3名からお話を伺いました。
製薬企業がオムニチャネルによる情報提供に取り組む一方で、医師が望む「理想のオムニチャネル」がどのようなものなのかは明らかになっておらず、製薬企業が提供する情報提供の形が医師のニーズに沿っているとは言い難い状況です。
本インタビューでは、医師が望む「理想のオムニチャネル」を明らかにするため、先生方が考える「理想の製薬企業からの情報提供の形」についてお話していただきました。
目次
- ● 医師は複数サイトの往復に負担を感じており、1つのチャネルで情報を完結させる形を理想としています。チャット等で簡潔にやり取りでき、過去の履歴が蓄積されることで、知識定着と検索の効率化が両立する環境が求められています
- ● 実臨床では「文字化できないニュアンス」や、他医師の症例経験、薬剤の比較データが重視されます。試験データだけでなく、現場での使い分けといったリアルな情報を、MRとの対面や簡潔な資料を通じて得る価値が示されています。
- ● ニーズは開発から発売後まで段階的に変化します。40分の講演会より短時間のサマリーがありがたい、AI活用や正確な回答への即時アクセスといった、必要な時に必要な情報を効率的に取得できる仕組みの重要性が強調されています。
| S先生 | T先生 | K先生 | |
|---|---|---|---|
| 施設形態 | 公立病院 | 一般病院 | 一般病院 |
| 診療科 | 皮膚科 | 内科(糖尿病) | 腎臓内科 |
| 年代 | 30代 | 40代 | 30代 |
医師が製薬企業に臨む情報の質とチャネルとは?
先生にとっての「理想のオムニチャネル」とはどんなものでしょうか?
S先生(皮膚科) MRからの総合的なコミュニケーションが最も価値があると考えています。文字だけでは得ることが難しい実臨床情報が得られるからです。
文字だけでは得ることが難しい情報とはどんなものでしょうか?
S先生(皮膚科) 例えば、アトピー性皮膚炎のような新薬が多数発売されている領域では、各薬剤の強さ、患者層ごとの使い分け、他医師の使用方法など、使ってみないと判断できない情報が重要です。こうした『文字化できないニュアンス』こそが、実臨床で最も役立つ情報です。
T先生(内科/糖尿病) わたしは、開発段階からの段階別情報提供と、薬剤同士の比較データが充実していることが理想だと思います。新薬については、発売後に初めて情報を得ることがほとんどですが、理想としては、第Ⅱ相試験の段階から学術担当やMRから医師に情報提供してほしいです。開発段階では医師自身が情報にアクセスしにくいため、製薬企業からの主体的アプローチが必須です。
特に重要なのは比較データです。患者に最適な薬剤を選ぶためには、ポジティブ情報とネガティブ情報の両方が等価に提供される環境が必要です。
K先生(腎臓内科) わたしは、全てのやり取りを1つのチャネルで完結させる形が理想です。情報はチャットで簡潔に受け取りたい。複数チャネルからの情報収集は手間がかかりますし非効率です。
1つのチャネルというのは、例えばm3の『MRくん』のようなものでしょうか?
K先生(腎臓内科) はい。たとえばm3などの既存プラットフォーム上に企業単位での個別メッセージ機能があり、そこで全てのやり取りが管理できると便利です。1つの場所にアクセスするだけで知識の定着と効率的な検索が実現します。
チャットではどんな情報が提供されると良いでしょうか?
K先生(腎臓内科) 情報収集は疲れている時間帯に行うことが多いため、長文や論文全文を読む気力がないこともあります。簡潔で見やすいサマリーや図表中心の資料が必須です。また、モチベーションが高いときでも、知りたい情報プラスアルファ程度が最適です。
全ての情報を一度に提供されると、頭がごちゃごちゃになってしまいます。原著論文であれば、まずサマリー版を提供した上で、詳細が必要なら全文を別途提供する方式が理想的です。
40分は長すぎる? サイトを行き来するのが手間… 医師が感じる不満とは?
現在のチャネルの使い分けと不満な点を教えてください
S先生(皮膚科) 段階ごとにチャネルを使い分けています。新薬発売直後は、MRから情報をもらいます。同時に、m3などでも情報を確認しますが、自分の専門領域に特化した情報が欲しいという課題があります。
長期使用に関する情報は、Web講演会や医学雑誌も参考にしますし、MRからの複数医療機関の情報も非常に価値があります。
Web講演会では十分な情報収集ができていますか?
S先生(皮膚科) 現在主流である40分程度のWeb講演会では、効果的な情報収集ができないと感じています。5~10分のサマリーが提供されると、具体的な質問も生まれやすいですし効率がいいと思います。
MRからの情報提供はいかがでしょうか。
S先生(皮膚科) MRとの対面によるディスカッションは価値があります。同じ資料を見ながらページをめくって「このページのここ」と指差しながら説明できるのは対面だけです。オンラインではこのようなニュアンスを引き出しにくいため、複雑な臨床相談にはリアルな対面が必須です。
T先生(内科/糖尿病) 医療系ポータルサイト(m3など)の新薬情報は充実していますが、既存薬の情報が不十分なのは改善が必要な点です。既存薬の情報収集のために複数企業のサイトにアクセスするのは非常に手間がかかります。
医療系ポータルサイトに各企業の薬剤情報が一元化され、その中から個人のメッセージ機能でやり取りできるのが理想。すごく効率的になると思います。
K先生(腎臓内科) 情報収集時に複数サイトを行き来しないとならない点が不満です。複数企業の薬剤情報を確認するとき、各企業のウェブサイトに個別にアクセスしなければならず、非常に負担が大きいです。
医療系ポータルサイトでは代用できないのでしょうか。
K先生(腎臓内科) m3、日経メディカル、ケアネットも見ていますが、それぞれ強い領域が異なり、1つのサイトで全ての情報が揃いません。結果として医師は複数のサイトを行き来し、同じ内容を何度も確認することになります。
検討段階やきっかけによって異なる、医師が必要な情報
薬剤基本情報以外に必要な情報はありますか?
K先生(腎臓内科) 自身の薬剤使用が正しいか、他に治療選択肢があるかを確認するため、他医師の症例経験や治療選択肢に関する情報が欲しいです。例えば、使ってみた結果、期待以上の効果が出ているケースもあれば、想定と異なる副作用が出ているケースもあります。
実臨床の情報の方が、臨床試験データより信頼できるため、複数の症例を簡潔にまとめた情報があるとありがたいです。
それぞれどのような情報が必要ですか?
T先生(内科/糖尿病) 情報ニーズは段階ごとに明確に異なり、開発段階では作用機序と期待効果が最優先です。第Ⅱ相試験以降は、臨床試験結果、副作用、脱落率などの具体的データが必要です。
発売後はリアルワールドデータが重要です。実際に多くの医師が使った結果の副作用発現頻度や治療成績が非常に有用です。
K先生(腎臓内科医) 新薬が発表されたタイミングで早く知りたいというのが基本ですが、段階ごとにニーズは異なります。具体的には、既存薬が使えない場合、既存薬で効果が得られない場合、製薬企業から新しい情報が発表された場合、の3パターンです。
発売前の治験段階は早すぎますが、発売後は他医師の使用例が出始めるため、発売直後の実臨床情報が最も信頼できます。
「1つの場所で複数の正確な薬剤情報を効率的に得たい」医師が求めるシンプルな導線
先生にとって理想的な情報収集とはどんなものでしょうか?
S先生(皮膚科医) 自分で調べる際に製薬企業のサイトを利用しますが、毎日のように見るわけではありません。あくまで必要時点での検索ツールです。理想としては、ChatGPTのような機能があり、AIに質問を投げかけて正確にまとめられた情報がぱっと出るようなシステムがあれば、利用頻度は確実に増えます。
ただし現状では信頼性の課題があり、実用的ではありません。
T先生(内科/糖尿病) 本音を言うと、同効薬の中でどの薬が優れているかを、企業サイトで直接比較した情報が掲載され、情報収集しやすい環境があれば、判断基準として非常に助かります。コンプライアンスの厳格化により、このような情報提供は実現が難しいことは理解しています。
また、既存薬の情報も充実させてほしいです。新薬ばかり優先され、既存薬の情報が十分でないため、医師は複数の情報源から自分で比較検討しなければなりません。
K先生(腎臓内科医) 企業ごとに公式アカウントがあり、そのアカウントと医師がチャットで直接やり取りできるようになれば理想的です。具体的なイメージは、InstagramやⅩのメッセージ機能のような形です。個人ではなく企業単位で管理されていれば、担当者が変わっても問題ないですし、過去のやり取りが全て保存されるため、後で見返す際に知識定着に役立ちます。
チャット機能には、返信の早さも求めますか?
K先生(腎臓内科医) いいえ。「LINEのようにすぐ返信が返ってくる」ことは期待していません。むしろ正確な情報をもらうことを優先します。製薬会社のコールセンターに電話したり、MRに連絡したりするより、チャットで質問を投げかけて回答を待つ方が効率的だと思います。
考察:医師属性ごとの理想のオムニチャネル像の共通点とは
3人の医師の発言から浮かび上がる共通点は、情報の効率性を重視し、段階別・状況別のニーズに対応できる環境を求めていることです。重要なのは、単なる情報配信ではなく、医師が疑問を持ったときに即座に答えが返ってくる環境であり、また過去のやり取りが蓄積され、知識の定着に役立つシステムであることです。
次回
次回は、「医師が求める理想のMR像」について同じく3名の先生に伺ったお話をお届けします。
(文:松原)
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