取材日:2024年1月
「DM白書2023年冬号」※1で時間外労働規制推進中の施設に勤務する医師を対象に薬剤・疾患関連情報の情報収集時間の変化について聞いたところ、増えたものとして「インターネット講演会」「インターネットサイト」「MR(リモート面談)」「MR(メール)」、減ったものとして「現地開催の講演会」「製薬企業主催の勉強会・説明会」「MR(面談)」の順となりました。
本記事では、各チャネル利用時間の変化が医師の情報収集活動へ与える影響、そして今後の変化について、医師の声をもとに明らかにしていきます。今回は、時間外労働時間の上限規制対応済み施設に勤務する3名の医師に座談会形式でお話を伺いました。
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※1 「DM白書2023年冬号」 調査期間:2023年10月13日~10月20日、調査方法:インターネット、有効サンプル数:医師5,069名
薬剤・疾患関連情報の収集時間の変化(実態)
「DM白書2023年冬号」での「薬剤・疾患関連情報の収集時間の変化(実態)」結果は下図のとおりです。
医師プロフィール
本座談会に参加いただいた医師のプロフィールは下記のとおりです。
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A先生 |
B先生 |
C先生 |
施設形態 |
国公立以外の病院 |
国公立以外の病院 |
国公立以外の病院 |
診療科 |
呼吸器内科 |
循環器内科 |
外科 |
年代 |
30歳代 |
40歳代前半 |
50歳代 |
時間外労働の上限水準 |
A水準 |
A水準 |
A水準 |
時間外労働の上限規制 |
準備中 |
実施中 |
準備中 |
現在の時間外労働状況 |
ほぼなし |
ほぼなし 時間外労働30時間以下の医師が3分の2程度 |
ほぼなし 長時間働いているのは特定の数名のみで、ほとんどの医師が18時には帰宅。 |
働き方改革実施前/後のチャネル活用度と、各チャネル利用時間の変化
専門領域の薬剤情報に関する各情報収集チャネルの利用時間について、働き方改革前後それぞれの上位3つを伺いました。
上限規制前後それぞれの利用時間TOP3を教えてください
A先生 |
上限規制前は、製薬企業の勉強会、MR面談、現地開催の講演会の順です。当時はMRのリモート面談はありませんでした。上限規制後の現在は、学会、MR(リモート面談)とMR(面談)が同一、インターネット講演会の順です。
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B先生 |
上限規制前は、製薬企業主催の勉強会・説明会、MR(面談)、学会の順、上限規制後の現在は、インターネット講演会、製薬企業主催の勉強会・説明会、学会の順です。
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C先生 |
MR(面談)、学会、MR(メール)・現地開催の講演会の順が、現在は、学会、インターネット講演会、MR(リモート面談)です。
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インターネット講演会は、働き方改革の影響で時間ができたことにより視聴機会が増加
上限規制前後での医師別利用時間(インターネットサイト/インターネット講演会)
インターネット講演会はみなさん利用時間が増えたTOP3に入っていますね。
A先生 |
はい。インターネット講演会自体が増えてきたので自然と視聴する回数も増えてきました。
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B先生 |
わたしは専門領域の講演会など、興味があるものを視聴しています。インターネット講演会はここ数年で圧倒的に増えましたし、視聴によるポイントも取得できるため医療系ポータルサイトで毎日内容を確認し、興味の沸いたものを視聴します。このため、利用時間はもっとも長くなっています。
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C先生 |
インターネット講演会を視聴する機会は増えました。ですが、開催の多い18時~20時は女性医師にとっては家事の時間と重なっているため参加しづらいと思っています。朝5時などの早朝や、21時以降など遅い時間のほうが参加しやすい、という方もいるのではないでしょうか。
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インターネット講演会の視聴時間が増えたというのは、働き方改革によって先生ご自身の生活が変わったことも影響しますか?
B先生 |
はい。インターネット講演会の多くは18時~20時台です。働き方改革がなされていない施設に勤めている場合には視聴が難しいため、今の施設だからこそ視聴時間が増えたのではないでしょうか。
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MR接触の機会は減ったが、必要な情報を入手するために必要だという医師の声も
A先生は、MR(リモート面談)とMR(面談)が2位ですが、以前と比較してMR(面談)の回数は減りましたか?
A先生 |
はい。MR(面談)の回数は減りました。以前はMRが医局前で待っていたり、アポイントなしで訪問されたりすることも多かったのですが今はそのようなことはありません。
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回数は減ってもMR(リモート面談)とMR(面談)が2位なのはなぜでしょう?
A先生 |
自身で調べるよりも適格かつ速やかにMRから情報提供を得られることがあるためです。例えば、薬剤の適応に悩むような症例を前にした際の前例の有無などの問い合わせ、使用頻度の少ない薬剤や新規採用する薬剤の情報、稀な有害事象が疑われた場合の情報提供などはMRから得ています。対面で質問したりデータを見ながら話を聞けたりする点がありがたいです。
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MR(リモート面談)、MR(面談)どちらも同じような話をされますか?
A先生 |
対面の場合は症例について具体的な相談をすることも多いですね。リモートの場合はMRが提供しづらいデータもあるのではないかと思っています。薬剤の一般的な解説はリモートでいいのではないでしょうか。
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C先生は、MR(面談)、MR(メール)がMR(リモート面談)へ変わっていますね。
C先生 |
はい。これは働き方改革というよりはコロナの影響で対面でのMR(面談)がほぼなくなったためです。わたしは外科なので、手術道具など現物を見る必要があるものはMRに持ってきてもらうことがありますが、基本的にはMR(リモート面談)で十分かなと思っています。MR(リモート面談)の機会はかなり減っていますが。
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B先生は、以前2位のMR(面談)が現在はなくなっていますが、これはなぜでしょうか。
B先生 |
A先生と同じ理由で、以前は医局の前で待っているMRが多く、受動的に話を聞いていたため必然的に回数は多かったのですが、現在は施設が完全アポイント制となったため回数自体が減っています。
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学会は、相対的に利用時間の順位が上昇
上限規制前後での医師別利用時間(現地開催の講演会/製薬企業主催の勉強会・説明会/学会)
学会の利用時間について教えてください
C先生 |
学会参加の頻度は変わっていないのですが、MRに会う頻度がかなり減ったため学会の順位が上がりました。リアルが好きなので、学会は現地で参加します。お金と時間を使って「自分で情報を取りに行くぞ」という意識でアクセスしています。
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B先生 |
わたしは年3~4回学会に参加しています。頻度が少ないのでこの順位ですね。
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A先生 |
わたしは学会参加が以前より増えました。これはオンライン参加が可能となり、病院の当番などで現地参加ができなくても聴講できるようになったことが影響しています。また、医師として自分の領域の経験年数も増え、MRに頼りすぎることなく、学会や医学書などを通じて知識のアップデートをしていくことが増えたためでもあります。
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利用時間の減ったMRの、代替可能な役割、代替え不可な役割
先生方みなさんMRからの情報が減ったということですが、今までMRから得ていた情報はどのように取得されるようになりましたか?
A先生 |
一般的な薬剤の情報は自分で検索してインターネットを利用して情報収集しています。
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B先生 |
以前はMRから情報を得ていたというより、MRが伝えたい情報だけを伝えてきていたと表現した方が正しいかもしれませんね。
薬剤情報は、演者の先生が重要なデータをまとめて話すインターネット講演会を視聴すれば入手できるので、現在はそれで十分だと思っています。インターネット講演会なら、自分で情報の取捨選択ができる点も良いと思っています。
ですが、MRが不要というわけではなく、MRの存在があってこそ、気軽に質問することができますし、それに対して迅速に回答してもらえるという点は、今後も必要だと思っています。
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MRからの一方的な情報提供が、先生方が知りたい情報だけをMRから得たい、という形に変わってきたということでしょうか
B先生 |
そうですね。インターネットなどで自分が調べられる情報には限界があり、やはり製薬企業だからこそ出せる情報もあります。例えば副作用、安全性に関する質問に対して、インターネット講演会での回答は期待できませんが、MRならなんらかの情報を持っているかもしれません。
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C先生 |
最近の薬不足についての背景や事情を教えていただくなど、製薬企業だからこそ持っている情報を、MRを介して教えてほしいと思っています。
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A先生 |
MRには近隣の医療機関の薬剤採用状況を教えてもらっています。供給が不足している薬剤について、近隣病院の状況を教えてもらったり、新規薬剤を院内で承認してもらうため、周辺の医療機関の薬剤利用状況をMRに教えてもらったりすることがあります。地区を担当しているMRからの情報は貴重だと感じています。
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情報源をまたいだ情報収集について教えてください。MRから情報を得ていたときと、MRから情報を得なくなった現在で、変化はありますか?
B先生 |
MRとの接触時間はとても短く、得られる情報自体が特定の薬剤に関する限定的な情報でした。一方で、わたしたちが必要としているのは疾患に関する疫学や身体所見、新しい検査や治療薬といった幅広い情報です。求める情報に占めるMRの役割自体が限定的であることを考えると、MRから情報を得なくなってもあまり変化はありません。
MRに求めるのは、こちらの質問の意図を的確に捉え、ストレートな回答をしてくれることです。この部分は、まだAIでは担えない点だと思っています。
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利用時間の増えたインターネット講演会の新たな役割
利用時間の増えたインターネット講演会は、これまでと同じように利用されているのでしょうか。
A先生 |
インターネット講演会の視聴が増えたことにより、圧倒的に専門外の診療科の情報を入手する機会が増えました。わたしの専門は呼吸器内科で、肺炎に心不全を合併している症例も多く診るのですが、自分の診療科で例えば利尿剤の説明を受ける機会はあまりありません。こういった普段接点のない情報を取得する機会が増えました。
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C先生 |
まったく同感ですね。
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B先生 |
わたしは循環器内科ですが内科という診療科は一般内科も診る機会があるため、これまでMRからは紹介がなかった薬剤についてもインターネット講演会を利用して情報を取得するようになりました。まれにしか診ない疾患でも、インターネット講演会から情報を得ることができるため非常に助かっています。
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C先生 |
5分~15分程度でコンパクトにまとまっているのもたくさんありますしね。
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B先生 |
講演会はだいたい前半に演者の先生の解説、後半が薬剤のコマーシャルという構成が多いため後半は興味がない、ということもあります。インターネット講演会であれば、前半だけ聞いて興味のない部分は視聴をやめることができます。そういう点でもインターネット講演会は便利に活用しています。
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C先生 |
医療系ポータルサイトを普段から見ているので、常に広告が表示されている薬剤は記憶に残ります。自分の診療科で使う機会もなく、これまで聞いたこともなかった薬剤だったのですが、日々広告を見ているうちに気になってきて配信されているコンテンツを閲覧した経験があります。
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これまでMRが担っていたコマーシャル的な案内が、インターネット講演会の場に置き換わっているということでしょうか。
C先生 |
はい。興味がなくても毎日目にすることで気になってきて、実際自分の診療科で処方することはない薬剤なのですが、あまりにも広告で目にするので覚えてしまい、この薬剤の話題をきっかけに他科の先生とコミュニケーションが取れたといった良い面もありました。
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B先生 |
わたしも同じような経験があります。広告をよく目にする薬剤は覚えてしまいますよね。
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専門外の情報を取得されることで、ゆくゆくはご自身の診療や患者さんとの対応で役に立つということでしょうか
B先生 |
患者さんはわたしの専門科だけの病気を抱えてきているわけではないですよね。鑑別機関として必然的に他科が専門としている病気の可能性を意識しながら診察しないといけないと思っています。
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C先生 |
専門外の情報を知っておくことは、他科の先生とコミュニケーション上も重要だなと感じています。
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A先生 |
わたしの病院の規模ですと、呼吸器内科専門としながらも一般内科で診る疾患もある程度カバーしています。中小規模の病院では、専門外の知識の必要性を感じる機会が、より多いのではないでしょうか。
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インターネット講演会を利用して専門外の診療科の情報を取得する形は、医師に時間的な余裕が生まれ、インターネット講演会が増えたことでインターネット講演会自体の立ち位置が変わってきたということでしょうか?
C先生 |
そうですね。これからは、専門外の医師が見てもわかりやすい動画、というものもあった方がいいかもしれないですね。専門医にとっては既知のことでも、専門外の医師にとっては新しい情報となります。専門外の医師向けの情報があってもいいかもしれません。
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インターネット講演会で疑問があった際にはどのように処理されていますか?
B先生 |
大勢の前では質問しにくいので心の中にとどめておきます。よっぽど気になったら自分で文献を調べたりはします。インターネット講演会の質問用に、担当MRへの窓口があると便利かもしれませんね。
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A先生 |
それはありがたいですね。オンデマンド視聴で後から講演会を視聴したあとで、MRにメールで質問をして後日回答してもらえるとしたら視聴意欲にもつながると思います。
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インターネット講演会で疑問に思ったことについて、製薬企業のサイトで調べますか?
C先生 |
専門領域ならあるかもしれませんが、まずは論文検索を行いますね。
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B先生 |
講演会の都度というよりは、実臨床上でなにか障害があった時に薬剤の添付文書や製薬企業のサイトを見にいくことの方が多いですね。
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2024年4月以降のチャネル利用時間の変化は?
働き方改革が施行される2024年4月以降、現在の順位に変動があると思いますか?
A先生 |
すでに施設での上限規制が完了していることもあり、私自身はそこまで変わらないと思います。
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C先生 |
そうですね。わたしも今と変わらないと思います。
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B先生 |
今の順位を保ったまま、各チャネルの利用時間の差がどんどん開いていくと思います。
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ラボ編集部より
すでに長時間の時間外労働は行っていない上限規制対応済みの施設勤務の医師の声により、利用時間の増加しているインターネット講演会は、専門領域だけでなく専門外の薬剤・疾患情報の収集にも活用されていることが明らかになりました。この背景には、インターネット講演会自体の回数の増加もさることながら、働き方改革によって退勤後の時間が確保できるようになっている点、コロナ以前はいつでも院内にいる存在であったMRの訪問機会が減少したことで、医師が自ら情報収集を行うようになっている点が大きく影響していると言えそうです。
また、インターネット講演会利用時間の増加に伴い、これまでMRが担っていたプッシュ型アプローチの場が、インターネット講演会やインターネット講演会を見るためにアクセスする医療系ポータルサイトへ置き換わりつつあることも明らかになりました。
MRとの接触頻度は下がっているものの、安全性情報などの「製薬会社だからこそ提供できる情報」は、MRを介して素早く的確に入手したいというニーズがうかがえ、この、「製薬会社だからこそ提供できる情報」を医師の望むタイミングでスムーズに情報提供していくための活動が、今後よりいっそう求められると言えそうです。
「DM白書ラボ」では、「新薬処方の各段階における医師のチャネル組み合わせ意向」 として処方の段階別のチャネルの組み合わせ意向を調査しています。チャネル検討の参考としてぜひご利用ください。
次回は、同じテーマで、時間外労働時間の上限規制対応推進中の施設に勤務する医師にお話を伺った内容をご紹介する予定です。(24年5月公開予定)
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