「医師の働き方改革」が及ぼす、製薬企業からの薬剤情報収集活動への影響とは‐上限規制対応中施設編(前編)
取材日:2024年2月
2024年4月に施行される「医師の働き方改革」は医師の情報収集活動へどのような影響を与えるのでしょうか。
今回は、時間外労働時間の上限規制に「対応中」の施設に勤務する3名の医師に座談会形式でお話を伺いました。今回ご参加いただいた3名の先生方はもともと同じ大学病院で勤務されていらっしゃいましたが、現在はそれぞれ別の施設で勤務されています。
なお、本記事とは別に、すでに上限規制対応が完了している施設にご勤務されている先生方にお話を伺った記事を先に公開しておりますので合わせてご覧ください。
(『「医師の働き方改革」が及ぼす、製薬企業からの薬剤情報収集活動への影響とは‐上限規制対応済み施設編』)
目次
薬剤・疾患関連情報の収集時間の変化(実態)
「DM白書
2023年冬号」で調査した「薬剤・疾患関連情報の収集時間の変化(実態)」※1の結果は下図のとおりです。薬剤・疾患関連情報の収集時間が増えたのは「インターネット講演会」「インターネットサイト」「MR(リモート面談)」「MR(メール)」、減ったのは「現地開催の講演会」「製薬企業主催の勉強会・説明会」「MR(面談)」の順となりました。
この結果を踏まえ、先生方が実際にどのように薬剤情報を収集しているのか、についてお話を伺います。
- ※1 最新のデータは「DM白書2024年春号」に掲載しています。
医師プロフィール
本座談会参加医師のプロフィールは下記のとおりです。
K先生(大学病院/内科) | T先生(私立病院/眼科) | M先生(公立病院/内科) | |
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施設形態 | 大学病院 | 私立 | 公立 |
診療科 | 内科(リウマチ、膠原病) | 眼科 | 内科 大学病院では感染症専門。現在は内科全般を担当。 |
年代 | 30代 | 30代 | 30代 |
時間外労働の上限規制 | 対応中 | 対応中 | 対応中 |
現在の時間外労働状況 | 上限規制を超えて勤務 | 時間外労働は月20時間程度 | 時間外労働は月60時間程度 |
勤務している医療機関の働き方改革の対応状況
ご勤務先の働き方改革への対応状況を教えてください。
K先生 (大学病院/内科) |
労働時間の上限規制は2023年度から始まっています。裁量労働制となっていて、実際は上限規制を超えて働いていますがそれを理由に帰宅することはできない状態で、時間外労働は自己研鑽扱いになっています。 |
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T先生 (私立病院/眼科) |
わたしの勤務する施設でも、着任した2023年には上限規制への対応はすでに始まっていました。月の時間外労働が60時間を超えないようにしていて、80時間を超えると上司との面談があります。 K先生と同じ大学病院在籍時には、遅い時間まで手術をしていることもありましたが、現在の施設での勤務時間は8:30~17:00で、実際の時間外労働時間は月20時間以下程度です。 |
M先生 (公立病院/内科) |
わたしの勤務先も、2023年4月に着任したときにはもう始まっていました。時間外労働は月60時間程度ですね。だいたい19時ぐらいには帰宅しています。K先生と同じ大学病院に勤めていた時には、コロナの影響もありましたが22時23時まで勤務することもありましたので、時間的にはきつかったと思います。 |
働き方改革への対応状況は大学病院の方が遅れているのでしょうか。
K先生 (大学病院/内科) |
私立や公立の病院の方が有給休暇の取得は推奨されているのではないでしょうか。大学病院では有給休暇はあまり消化できていません。ただ、働き方改革は制度として決まっているものなので、大学病院も制度に合わせて対応しています。 |
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働き方改革が施行される4月以降に、施設で新たに実施されることはありますか?
T先生 (私立病院/眼科) |
カルテのログイン時間を厳しくチェックする動きになっていて、勤務時間外にカルテが閲覧できないようになります。 |
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M先生 (公立病院/内科) |
T先生と同じく、カルテの閲覧時間が厳しく監視されます。 |
働き方改革実施前/後のチャネル活用度と、各チャネル利用時間の変化
上限規制前後それぞれの各チャネルの利用時間TOP3を教えてください。
K先生 (大学病院/内科) |
規制前は、MR(面談)、インターネットサイト、現地開催の講演会の順でした。今は、MR(面談)、インターネットサイト、インターネット講演会の順です。 |
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T先生 (私立病院/眼科) |
以前は、製薬企業主催の勉強会・説明会、現地開催の講演会、インターネット講演会の順でした。今は、MR(面談)、現地開催の講演会、学会の順です。 |
M先生 (公立病院/内科) |
以前からポイ活をしているということもあり以前も現在もインターネット講演会が1番です。2位以降は、以前は学会、3位はほぼなし、現在は、2位がMR(面談)、3位がインターネットサイトの順です。 |
MR(面談)は、替えがきかない重要な情報源
皆さんMR(面談)が上位になっていますが、DM白書の調査では「減った」という先生の方が多くなっています。どのような理由が考えられるでしょうか?
K先生 (大学病院/内科) |
MRの訪問自体が減ったのではないでしょうか。新薬発売がなくMRが来なくなったメーカーもありますし、コロナの影響で訪問規制が強くなりMRの訪問が減っているのかなという印象はあります。 |
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T先生 (私立病院/眼科) |
病院によってはコロナの陰性証明が必要なところもあったので、それが原因でMRの訪問が減ったというのはあると思います。 |
MR(面談)が1位の先生は、MRに声をかけて来てもらっていますか?
T先生 (私立病院/眼科) |
いえ、声はかけていませんがMRが訪問してくれています。わたしは手術時に利用するものは、MRがきちんと来てくれるメーカーを優先して使っています。もちろん製品が良いことは当然ですが。それもあって皆さん来てくれていますね。 |
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院内にいる時間が短くなったことでMRの面談を断ることはありますか?
T先生 (私立病院/眼科) |
わたしは断っていません。手術があるときは夕方に来てもらっています。 |
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M先生 (公立病院/内科) |
MR(面談)を含めた情報収集は昼休みに行っています。今の病院はMRの訪問は事前予約が必要なので、興味がない内容は時間がないことを理由にあらかじめお断りしますが、興味がある内容の場合は日時を指定してお会いします。 |
K先生 (大学病院/内科) |
わたしは面談が好きなタイプなので、コロナ禍で大学病院の面談が規制されていた時にはアルバイト先の病院で面談していました。お昼時の訪問が何社も重なってしまい、MRに途中で帰ってもらったこともあります。 |
お昼時に面談は迷惑ではないのでしょうか?
M先生 (公立病院/内科) |
月にそこまで多いわけではないので、とくに迷惑だとは感じません。 |
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K先生 (大学病院/内科) |
昼休みを取ることが難しいので、逆に面談が息抜きのような感じです。 |
面談の時間が限られてきますよね。「簡潔に伝えて欲しい」「自分にとって必要な情報だけ持ってきて欲しい」など、MRへの要求レベルがこれまでとは変わってくるのでしょうか?
K先生 (大学病院/内科) |
はい。例えば、全国講演会の詳しい内容を伝えてくれたり、役割を依頼されたりといった場合はいいのですが、講演会の案内を持ってくるだけなら郵送でいいです、と伝えることはあります。 |
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勤務時間が短くなったことによって、MRの利用目的や利用法が変わったということはありますか?
K先生 (大学病院/内科) |
わたしは希少疾患を結構診ているので、希少疾患や特殊な状況でしか使わないような高額な薬剤の導入の際は安全性や効果についての情報を得るために、わたしの方からMRに連絡して訪問してもらっています。 自分でインターネットを利用して調べるよりも、MRの情報のほうが早くて正確です。販売している側なので責任を持ってわたしの質問に回答してくれますし、論文などの情報提供もしてくれています。 今後、インターネット講演会の案内だけをするようなMRは淘汰されても、MRが担っているその部分は替えがきかないですね。リモート面談やホームページの充実ではおそらく補填できないかなと思います。 |
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MR(リモート面談)やMR(メール)でのコミュニケーションはお話に出てきていませんが、利用されていないのでしょうか?
K先生 (大学病院/内科) |
MR(リモート面談)は面倒くさくてあまり使っていません。リモートだとMRを待たせてしまうことがあった場合に忍びないのと、会議がひとつ増えたみたいで重たくなってしまうので。 |
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M先生 (公立病院/内科) |
わたしは一時期MR(リモート面談)を利用していましたが、MR(メール)は特に利用していません。 |
T先生 (私立病院/眼科) |
MR(リモート面談)は利用したことがないですね。MR(メール)はほとんどが講演会の案内であり、すでに案内が紙面でも届いていたり、直接面談があった時にアナウンスを受けていたりするため、メールを開封することはありません。 |
現地開催の講演会、学会は説得力のある情報源であり、医師のコミュニケーションの場としても重要
現地開催の講演会、製薬企業主催の勉強会・説明会、学会についてお話をきかせてください。
T先生 (私立病院/眼科) |
大学勤務時(上限規制前)は、18:00~19:00にMRからの説明会に参加しなくてはならず、これが情報収集時間としては大きかったのですが、勤務施設が変わったことにより、なくなりました。現在は、専門医資格の維持のために学会や講演会に積極的に参加しておきたいと考えているので、上位を占めています。 MRから案内されるより、講演会などで処方経験のある先生から「患者さんにこのように使ったら効きました」という実例を聞けた方が、使う症例がイメージしやすくて初回使用につながりやすいと思います。 |
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K先生とM先生は学会や講演会での情報収集についてどのようにお考えですか?
K先生 (大学病院/内科) |
インターネット講演会と現地開催の講演会はどちらも講演会という名前はついていますが、実際は形式だけではなくて役割も違うととらえています。 現地開催の講演会は演者が各分野のエキスパートの医師であることが多いのですが、インターネット講演会は若手医師が演者になることもあり、KOLと比較すると知識レベルも講演内容のレベルも異なっている、ということもあります。 また、参加者側としても、その場に身を置くことで内容に集中できますし、同僚の先生と感想を話し合えたり、みんな知っているのに自分だけ知らないという状況がわかったり、討論もあったり、ためになります。 |
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T先生 (私立病院/眼科) |
現地開催の講演会だと終了後に立食があったりして、大学の先生に久しぶりにお会いして悩み相談ができたり、薬剤の話にからめて実際の診療の話や困っていることについてのコミュニケーションを取れたりするので、そのような場としては結構役立ってくれています。 |
現地開催の講演会は先生同士のネットワーキング的な意味合いもあるかと思うのですが、インターネット講演会が増えている中で、その部分について皆さんはどうされていますか?
K先生 (大学病院/内科) |
希少疾患だとMRも医師も少ないので、ネットワークづくりはとても難しいと感じています。地区で診察されている先生に臨床の方針などを質問するために、MRにその先生とつながる場の提供を依頼して、クローズドな講演会を開いてもらったことがあります。 |
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お話を伺うとリアルな場での情報収集は重要とのことですが、実際には現地開催があってもT先生以外はトップ3に入ってこないのはなぜでしょう?
K先生 (大学病院/内科) |
回数が著しく少ないからですね。 |
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M先生 (公立病院/内科) |
すごく少ないですよね。 |
T先生 (私立病院/眼科) |
最近減りましたね。 |
『「医師の働き方改革」が及ぼす、製薬企業からの薬剤情報収集活動への影響とは‐上限規制 対応中施設編 ‐(後編)』(2024.05.22公開予定)へ続きます。
ラボ編集部より
先生方のお話により、大学病院における働き方改革の時間外労働上限規制への対応は、大学病院以外の施設と比較すると遅れているという実情が見えてきました。
ですが、どの施設形態においても、医師の勤務時間が短くなったことで、MRや、現地開催の講演会、製薬企業主催の勉強会・説明会、学会などのリアルな場での情報提供は、これまでより一層時間的制約を受けることになりそうです。
ですが、これらリアルな場での情報取得は他の手段では代替不可であり、限られた時間をそのために確保し可能な限り積極的に情報を得たいと考える医師の姿も見えてきました。今後は、医師のニーズに合わせ情報提供していくことはもちろんですが、情報提供のタイミングや手法についても医師の実情に合わせて変化させていく必要があるでしょう。
後編では、インターネットチャネルでの情報収集および、処方の意思決定に影響するチャネルについてのお話をお届けします。
出典
DM白書2023年冬号
調査期間:2023年10月13日~10月20日
調査方法:インターネット
有効サンプル数:医師5,069名