【医師の働き方改革 CASE02】働き方改革を踏まえたMRからの情報提供への期待
医師の働き方改革に伴い、2024年4月から医師の時間外労働規制が適用されます。
今回は、地域の基幹病院の循環器内科に勤務するA先生へのインタビューから見えてきた、医師の働き方改革の現状と、医師の時間外労働規制による薬剤情報集への影響について報告します。
A先生のプロフィール
・施設形態:市中病院
・診療科:循環器内科
・役職:部長
・年代:40代
・取材月:2023年8月
勤務している施設における医師の時間外労働規制の取り組み状況
A先生が勤務する施設における時間外労働規制の状況と、勤務時間と自己研鑽時間の考え方について紹介します。
勤務施設の紹介
A先生は三次救急の医療センターに勤務しています。
時間外労働規制水準については、病院側より「年960時間、月100時間未満」の水準を目指して努力するようにとの指示が出ており、2023年の2月から試験運転的にスタートしました。
しかし、病院側からは努力するようにとの指示のみで、自施設がどの時間外労働規制水準にあたるのかなど詳しい説明はありませんでした。
勤務時間と医師の自己研鑽の考え方
A先生の定時は8時20分~16時50分ですが、7時50分には集合して患者さんの症例提示などを行っています。
病院から指定されている勤務時間と自己研鑽の時間を線引きする明確なルールはありません。A先生は、タイムカードを押していない時間は自己研鑽にあたり、勤務時間と自己研鑽時間の線引きについて議論することには意味がないと考えています。
医師の時間外労働規制に対する取り組み
A先生が勤務する病院では、2024年4月からスタートする時間外労働規制に向けた新しい試みとしてタイムカードが導入されました。
タイムカードをきちんと押さない人にはペナルティーが科され、勤務時間が100時間を超えると所属長より注意を受けます。
時間外勤務の申請は、これまでどおり紙で申請する方法がとられています。
医師の時間外労働規制への病院側の取り組みへの不満
時間外労働規制への取り組みとして病院がタイムカードを導入したことは、A先生や周囲の医師にとってはあまりメリットがなく、不満を感じているとのことでした。理由や周囲の反応は以下の通りです。
病院側の取り組みへの医師の不満の理由
● タイムカードを押す手間が増えた
● 時間外手当の申請はこれまでどおり紙で行っているため、タイムカードはあまり意味がない
● タイムカードを導入しても、時間外労働が減るわけではない
● 監視されているようで、注意されるストレスが増える
● 所属している科の若手も、注意されることへの苛立ちを訴えている
● 国が決めたルールを施設が遵守しなければならないのであれば、それに従いましょうというぐらいの参加意欲しかない
もっとも時間外労働が多いのは若手医師であり、若手医師がさまざまな経験を重ねることで効率的な仕事の進め方を身につけ、結果として時間外労働を少なくしていくことができます。
効率的な仕事の進め方を身につけるためには経験を積むことが重要ですが、研修医の多くが17時には退勤しており、若手医師の経験値が上がらなくなることが危惧されています。
医師の時間外労働規制の薬剤情報集に対する影響
医師の時間外労働規制が医師の薬剤情報収集にどのように影響してくるのかについても伺いました。
現時点で収集しやすくなった情報、収集しにくくなった情報はどちらも特になく、今後も影響を受けることはありません。
また、非専門領域の薬剤の情報収集についても、必要があれば自分から調べるため、大きな影響はありません。
薬剤情報収集に利用するインターネットチャネル
医師の働き方改革を踏まえた薬剤情報収集において、薬剤の基本情報の収集に関してはインターネットからでも困ることはありません。薬剤情報収集の際に利用するインターネットチャネルについて下表で紹介します。
表1.薬剤情報収集におけるインターネットチャネルに対しての意見
インターネットチャネル | 意見 |
---|---|
インターネット講演会 |
・好きな時間に視聴することができるので、時間外労働規制を踏まえるとオンデマンド配信が望ましい ・質問への回答は配信期間中に集まったものを集計し、後日回答集のような形式で公開してほしい ・夜間に開催されることが多いので、講演される先生にとっても働き方改革からは逸脱した行為では? ・インターネット講演会の案内は、MRからではなく医療サイトのみで十分 |
製薬企業が運営するサイト |
・調べたい薬剤の名称を検索エンジンで検索した際、製薬企業のサイトがヒットしたら利用する ・販売している製薬企業を知っていれば直接サイトを閲覧することもある ・サイト内では目的の情報が見つけやすいことが望ましい |
MRからの情報提供
MRとの面談機会
MRとの面談機会の増減は特にありません。また、今のところ、時間外労働規制を受けてMRとの面談を病院側から制限することもありません。
A先生は、基本的にはMRとの面談は断らないようにしており、外来が終わる頃に来てもらうようアナウンスしています。
コロナ禍以前はMRが夜遅くまで活動していましたがコロナ禍以降常識的な時間に面談設定されるようになっています。A先生は、コロナ禍以前のMRの働き方に疑問を抱いていたため、MRとの面談時間も働き方改革に合わせて設定されることを喜ばしく思っています。
MRと直接面談することの意義
薬剤情報収集の観点では、MRとの直接面談がなくても特に困ることはありません。実際、コロナ禍にMRの訪問がなくなっても、特に困ることはありませんでした。
それでも、MRへ直接質問したい点が思い浮かぶことがあり、MRとのディスカッションなどを通して薬剤の理解が深まっていくことに意義があると感じています。
また、直接面談することにより処方につながった薬剤や処方が増えた薬剤もあり、何度も熱心に訪問するMRの企業の薬剤と、他の同じクラスの薬剤とでは処方に差が出ることもあります。
MRからのメールでの情報提供
直接面談したことのある顔と名前が一致しているMRからのメールであれば、受信したメールを確認しますが、コロナ禍に担当変更になった面識のないMRからのメールは見る気になりません。
また、インターネット講演会の案内などの薬剤に直接関係のない情報に関しては、MRからのメールではなく、医療系ポータルサイトに任せた方がよいと考えています。
MRによる製品説明会の変化
病院内でのMRによる製品説明会は、従来通り18時や19時頃に開催されており、時間外労働規制による開催時間の変化は特にありません。A先生にとって18時や19時は勤務時間外となり、できれば参加したくないと感じています。MRも勤務時間外にあたるのではないかと懸念されています。
A先生個人としては、日中の勤務時間内の開催を歓迎しますが、人が集まるかどうかという点では、懸念が残ります。
ラボ編集部からのコメント
今回のインタビューを通じて、医師の働き方改革に向けた病院側の取り組みが、必ずしも現場の医師に歓迎されているわけではないことがわかりました。また、薬剤情報収集の時間を勤務時間として扱うのか、自己研鑽時間として扱うのかについて、A先生は特に意識していないことがうかがえました。
働き方改革の推進に伴い、医師側の労働時間に対する意識が高まっていることが明らかになりました。A先生はMRに対しても、医師の働き方改革に合わせた勤務時間内での情報提供活動を希望しています。製薬企業側が医師の期待に逆行する働き方をしていると、ネガティブな印象を与える可能性が高まると考えられます。
今後、MRが医師の勤務時間を考慮して面談を行う場合、診療時間や退勤時間を加味する必要があり、MR活動はこれまでより一層、時間的な制限を受けることになります。このため、1回の面談機会がMRと医師との対話の場として非常に重要な意味を持つことになります。
A先生によれば、薬剤に関する明確なニーズはインターネットでの情報収集で対応可能です。しかし、MRとの対話を通じて気づかされる新たなニーズも存在し、そのためA先生はMRとの面談を重要な情報源として認識しています。
MRが有用な情報源であり続けるためにも、医師の薬剤理解度やインターネットチャネルの利用状況等に基づいた情報提供活動を行うことが重要ではないでしょうか。