医師視点で考える「使いやすい製薬企業オウンドサイト」 Vol.3 後編
取材年月:2025年1月
医師にとって「使いやすい製薬企業サイト」とはどのようなものでしょうか。本インタビューでは、医師が製薬企業サイトを閲覧するきっかけや行動、その際にサイトに掲載されていてほしい情報、また、それらがどのようにレイアウトされていると使いやすいのかについて国公立病院で消化器内科を専門に診ているN先生にお話を伺い、先生が考える使いやすいWebサイトをご紹介します。
・診療科:消化器内科
・年代:40代
・メディアマインドシェア:MR派
インタビュー「製薬企業サイトで薬剤情報を収集する医師のUX」※1では、製薬企業サイトで添付文書を探せないといった使いづらさを挙げる声がありました。
本インタビューでは、医師が製薬企業サイトを閲覧するきっかけや行動、その際にサイトに掲載されていてほしい情報を伺い、医師と共に理想の製薬企業サイトを作っていきます。どの情報がどの位置にあると良いのか、テキストが良いのか写真が良いのかといった、定量調査では把握できない医師が感じる「使いやすさ」を形にします。
前編※2では、ケース1:診療中に必要になった薬剤の疑問点の確認についてお話を伺いました。後編では、N先生が「医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった薬剤情報の確認」時に製薬企業サイトを閲覧するケースについてお話を伺います。
目次
ケース2:医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった新薬についての詳細情報や、特徴的な副作用などを製薬企業サイトで確認
続いて、「医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった薬剤情報の確認」について具体的に教えてください
医療系ポータルサイトは、お昼ご飯を食べながらといった感じでほぼ毎日見に行っています。アクセスすると専門領域のニュースが表示されますね。
専門領域の新薬発売情報は、MRからの情報提供よりも早く医療系ポータルサイトから得ることもあります。
専門領域の新薬情報は知らなかったでは済まされないこともあるため、製薬企業サイトで確認します。
このとき製薬企業サイトで確認されるのはなぜですか?
医療系ポータルサイトに情報があればそれで済みますが、「発売です」しか載っていない場合は情報が不十分なため、製薬企業サイトを見にいきます。発売時期は製薬企業サイト以外には情報が載っていないので。
製薬企業サイトではどのようなことを確認されますか?
担当患者の状況によって異なります。新薬が適用となる患者さんを実際に診察している場合は用法などを詳しく確認しますが、そのような患者さんがいない場合は新薬が発売されたことを気に留めておき、患者さんが来た時に改めて製薬企業サイトで詳細を確認します。
確認されるのは用法・用量や副作用が多いのでしょうか
がん治療なのか炎症性腸疾患治療なのか、疾患によっても確認する内容は異なります。抗がん剤の場合は何次治療での適用なのか、また作用機序、特徴的な副作用などを確認します。
サイトの内容で情報収集は完結しますか?
使い慣れていない新薬の場合はMRに一度は連絡すると思います。該当の患者さんが現れる前にMRが「新薬が出ました」と来てくれることがほとんどなので、自分から連絡することはほぼありませんが。
タイミングとしては、承認が下りてから発売されるまでの間でしょうか
はい、そうですね。まず医療系ポータルサイトで知った後に製薬企業サイトで情報を確認して、その後MRから話を聞く、という流れですね。
ケース2(医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった薬剤情報の確認)でも、製薬企業サイトではケース1(診療中に必要になった薬剤の疑問点の確認)と同様の情報が必要でしょうか
はい。ケース1と同様に適用、用法・用量、作用機序、特徴的な副作用の情報が必要です。
ケース2(医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった薬剤情報の確認)の場合はケース1(診療中に必要になった薬剤の疑問点の確認)と異なり、診療中に急いで見るというより昼休みのような少し時間のあるときに確認されますか
そうですね、Web講演会情報もあれば良いですが、やはりこのケースでも必要なのは適用、用法・用量、作用機序、特徴的な副作用ですね。
ページにあると良い情報をまとめました
ページにあるとよい情報 |
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適用 作用機序 用法・用量 特徴的な副作用と発現時期 ガイドライン速報 第三相試験の結果(解説動画) 添付文書 関連した薬剤 Web講演会情報 |
これで良いと思います。
N先生が考える、「医療系ポータルサイトのニュースなどで気になった薬剤情報の確認」に使いやすいWebサイトのレイアウト
では、ケース1と同様にZoomのホワイトボードツールを使って実際に先生にとっての理想のサイトレイアウトを作成していただきたいと思います。まず、ページ上部にはどのような情報が並んでいると良いですか?
基本的にはケース1 と同様です。特徴的な副作用と、その発現時期がわかりやすく記載されていると良いですね。抗がん剤であれば、特徴的な副作用としてirAE(免疫関連有害事象)などがあるため、その発現時期や頻度など、添付文書には記載されていない情報があると助かります。
新薬の場合、まったく想像していない副作用があるかもしれないため、最新の副作用情報が掲載されているとありがたいと思います。
このときも添付文書は右側で良いですか?
はい。
このタイミングですとWeb講演会の案内があるケースもあると思いますが、サイトに情報があると良いですか?
はい。先ほどと同様に右下あたりにあると良いですね。
他はいかがでしょうか
このタイミングでは製品パンフレットがまだ手元にないことが多いため、パンフレットがクリックで閲覧できるとありがたいですね。パンフレットに掲載されている試験結果を確認したいです。
臨床試験結果にはよくKOL解説の動画が掲載されることがありますが、そういったものは必要でしょうか。
第三相試験の結果はテキストだけだと重要なポイントがわかりづらいこともあるため、解説動画があると嬉しいです。解説をしてくれるのは有名な教授でなくてもよく、MRでも、AIやロボットでも十分で、製薬企業が重要だと考えているポイントがわかれば良いです。
関連する薬剤や同じ領域の薬剤情報のリンクがあると便利ですか?
抗がん剤の効果や副作用の頻度などについて、他の製薬企業の薬剤との比較した情報があると良いのですが、それは難しいですよね。今困っている患者さんがいて、どんな薬でもいいから良くなってほしい、という場面で参考にできる情報があればありがたいです。他のメーカーとの違いや効果、副作用の頻度といった情報を比較したいです。わたしが一番知りたいのはそこなんですよね。
今はそういった情報はどうやって確認されていますか?
ガイドラインですね。新薬でもガイドライン速報に載ることがあるため、製薬企業サイトにも掲載があると、特に薬剤の立ち位置を把握しやすいです。
ガイドライン速報も動画で解説されているメーカーもありますが、動画はあった方が良いですか?
確かにそうですね。文章だけを見てもピンとこないところを動画にしていただけるとありがたいです。
動画の場合、ながら聞きもできるので重宝する、という声も他の先生から伺いますが、先生の動画活用方法はどのような形でしょうか。
状況によって使い分けています。すぐに薬剤を使用したい患者さんがいるときには集中して視聴しますし、新薬が出たけれど今は該当の患者さんがいないという情報収集段階のときは、ながら聞きをすることもあります。
Web講演会はいかがですか?
Web講演会情報もあれば良いと思います。
レイアウトはこのようになりました。
製薬企業サイトで確認したい情報がまとまっていて使いやすいと思います。関連するガイドラインが閲覧できるのはポイントが高いですね。
ラボ編集部より
今回は、消化器内科のN先生にお話を伺いました。N先生が製薬企業サイトで確認するのは生物学的製剤の情報が多いということでした。生物学的製剤は適用拡大が多く、治療に際しては対象患者や用法・用量、副作用やその発現タイミングといった複雑な情報の把握が求められます。
今回の資料をまとめるにあたり各社の情報を確認した結果、掲載方法は各社ごとに工夫されてはいるものの、統一されたフォーマットでの掲載は行われていないため、情報の受け手にとっては閲覧の際に苦労する点があるのではないかと感じました。
複雑化する薬剤情報を医師に正確に伝えていくためには、受け手にとって必要な情報を見極め、整理していく必要があります。従来のテンプレートに合わせた情報提供にとどまらず、医師が各チャネルをいつ、どのように利用し、どの情報を必要としているのかを把握した上で、今一度情報設計を見直す必要があるのではないでしょうか。
今後解決すべきことは?
医師視点で考える「使いやすい製薬企業サイト」インタビューは今回でいったん終了します。次回はインタビュー中に医師から上がった「製薬企業サイトの使いづらさ」の定量調査結果をご紹介します。(25年6月以降公開予定)
(文:松原)