医師視点で考える「使いやすい製薬企業サイト」 Vol.1 前編
取材年月:2024年12月
医師にとって「使いやすい製薬企業サイト」とはどのようなものでしょうか。本インタビューでは、医師が製薬企業サイトを閲覧するきっかけ、行動、その際にサイトに掲載されていてほしい情報、また、それらがどのようにレイアウトされていると使いやすいのか?について、大学病院で膠原病を専門に診ているO先生にお話を伺い、先生が考える使いやすいWebサイトをご紹介します。
・診療科:総合診療科
・年代:40代
インタビュー「製薬企業サイトで薬剤情報を収集する医師のUX」※1では、製薬企業サイトで添付文書を探せないといった使いづらさを挙げる声がありました。
本インタビューでは、医師が製薬企業サイトを閲覧するきっかけや行動、その際にサイトに掲載されていてほしい情報を伺い、医師と共に理想の製薬企業サイトを作っていきます。どの情報がどの位置にあると良いのか、テキストが良いのか写真が良いのか、といった定量調査では把握できない医師が感じる「使いやすさ」を形にします。
目次
製薬企業サイトを閲覧するケース1:医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する
まず、専門領域の薬剤情報収集において先生が製薬企業サイトを利用するケースとその頻度を教えてください。
医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する際に製薬企業サイトを利用します。製薬企業サイトを確認するのは、だいたい5回に1回程度です。
製薬企業サイトの閲覧頻度は、医療系ポータルサイトと比較すると低いのでしょうか?
そうですね。製薬企業サイトは薬剤の詳細な情報が載っているため、内容を確認するには集中力や気力が必要です。スキマ時間に気軽にというわけにはいかず、しっかりと目を通す必要があります。
ニュースに気づくのは医療系ポータルサイトを見たときですか?
いえ、サイトではなく、医療系ポータルサイトから届くメールがきっかけになることが多いです。メールのタイトルに専門領域の薬剤名があると「薬剤の新しい情報が出たのかな?」と気になります。そのメールから医療系ポータルサイトへアクセスすることもあれば、メールの内容を見た後にブラウザのブックマークから直接製薬企業サイトへアクセスすることもあります。外来の待ち時間など、5~10分程度の時間があるときにチェックします。
製薬企業サイトへのアクセス方法として、検索を利用する場合とブックマークから製薬企業サイトへ直接アクセスする場合があるとのことですが、それぞれどのように使い分けているのでしょうか?
そうですね。スキマ時間の場合はたいていGoogle検索からアクセスします。気力があるときや、気になった薬剤について医学的な内容をしっかり確認したいというときには、ブックマークしている製薬企業サイトへ直接アクセスしています。
どこで情報収集するかは、情報収集時のモチベーションと先生が利用できる時間に影響を受けるということでしょうか?
はい。最も利用しやすいのはSNSのX(旧Twitter)です。Xは医療系ポータルサイトよりも手軽ですし、医師が情報を投稿したり論文を紹介したりしているので活用しています。
次が医療系ポータルサイトですね。情報収集するモチベーションと時間があれば、医療系ポータルサイトの5分程度のアーカイブ動画などを視聴します。
以前は論文も気軽に読んでいましたが、医療系ポータルサイトや製薬企業サイトなど、より気軽に情報収集できるツールを利用することが多くなっています。
Web講演会は日中に視聴することが時間的に難しく、最近は視聴機会が減ってきています。
ChatGPTなどの生成AIは情報収集に利用されますか?
ChatGPTなどの生成AIは文章作成や翻訳に利用していますが、情報収集にはあまり活用していません。
ブックマークする企業の基準はありますか?
専門領域の薬剤を扱っている製薬企業です。
気になった情報を調べるために製薬企業サイトへアクセスする際、その情報についてより深い情報を得たいのか、より幅広い情報を得たいのか、というとどちらが強いですか?
どちらかというと幅広い情報です。そのため、薬剤の周辺情報も得られるWeb講演会情報に期待しています。より深い情報を得たい場合には論文を確認しますが、論文を確認するほどの元気がないときには製薬企業サイトを利用することもあります。
専門と専門外では、気になった情報の調べ方に違いはありますか?
はい。専門外の知識を手軽に学びたいときには医療系ポータルサイトが便利です。時期によっては、予防接種情報や薬価を製薬企業サイトで確認することもあります。
専門領域の場合、医療系ポータルサイトでは内容が薄いと感じるため、製薬企業サイトを利用しています。
医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する際に、製薬企業サイトに必要なのはWeb講演会情報、作用機序、臨床試験結果
医療系ポータルサイトのニュースで気になった情報を確認する場合に、「製薬企業サイトに掲載されていてほしい情報」を項目一覧から選んでいただきました。
ページにあると良い情報 | ページになくてもいい情報 |
---|---|
Web講演会 作用機序 臨床試験結果 全例調査 市販直後調査 領域別情報のカテゴリ お役立ち情報 |
添付文書 外装 薬剤写真 インタビューフォーム 適正使用ガイド |
医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する際に製薬企業サイトに必要な情報を選んでください
まずはWeb講演会情報です。画像などの視覚的な情報とセットで載っているとより良いと思います。臨床試験結果もあってしかるべき情報だと思います。添付文書やインタビューフォームは、副作用情報などを調べたいときに必要ですが製薬企業サイトよりもインターネット検索や電子カルテで確認するため、ここでは不要ですね。
製薬企業サイトで添付文書をご覧になることはありませんか?
はい。添付文書を閲覧する際にはGoogle検索で薬剤名を探しますが、薬剤の名称と販売している製薬企業が紐づかないため、製薬企業サイトを利用することは少なく、上位に表示された別のサイトで確認することがほとんどです。製薬企業サイトでは添付文書がどこにあるのかわからずアクセスに時間がかかるため、製薬企業サイトで確認するという習慣がありません。
作用機序が必要なのはなぜですか?
頻繁には見ませんが添付文書よりも詳しい作用機序や疾患について知れるとありがたいからです。添付文書は無味乾燥な情報だけなので、もう少し詳しい副作用情報や使い方が載っているとありがたいと思います。
製品ロゴやパッケージ、製剤写真などは必要ないのでしょうか?
ページが文字ばかりだと見ていて疲れてしまうので、製品ロゴのような絵的な要素があるといいです。製剤写真は、患者さんが錠剤を持ってきて質問されたり、薬剤のサイズを聞かれたりすることもあるのであると役立ちます。ただ、実際には製薬企業サイトではなく検索で調べることが多いですね。そのほうが早いので。製薬企業サイトに必要かと言われると、無くても問題ありません。
O先生が考える、「医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する際」使いやすいWebページレイアウト
ここからはZoomのホワイトボードツールを使って、実際に先生にとっての理想のサイトレイアウトを作成していただきたいと思います。まず、一番上の場所(グローバルナビゲーション)にはどのような情報が並んでいると良いですか?
Web講演会をよく視聴するので、左上は「Web講演会情報」です。その隣に「作用機序」「臨床試験結果」の順がいいと思います。「お役立ち情報」のような息抜きコーナーがあるといいですね。
最近便利だなと思っているのが「領域別情報」です。これもあると良いですね。領域別情報から疾患の分野ごとのまとめページに移動できます。領域別情報があれば専門領域の情報を確認するだけでなく、専門領域に隣接する周辺情報なども確認できて便利です。
また、新薬などは薬剤名だけサイトのトップに掲載されていてもアクセスしないので、「この疾患の薬剤です」というトピックから薬剤情報へという流れの方が断然アクセスしやすくなると思います。
お話をまとめると、上に並んでいてほしいのは図のような感じでしょうか?
はい。
製薬企業からのお役立ち情報系で、先生が利用しているものや使ってみたいというものはありますか?
製薬企業が作成したイメージイラストを一時期講演会の資料に使っていました。ただ、その後はイラストが増えず、利用する機会が減ってしまったのが残念です。
Web講演会情報はどのように掲載されていると使いやすいでしょうか
製薬企業サイトで最も利用するのが講演会情報ですので、3~4個の専門領域の薬剤に関連する講演会情報が掲載されているといいと思います。この真ん中のエリア(2)ですね。
ページ内で最新情報がすべて網羅されているサイトと、メニューを選択してより詳しい情報を確認できるサイト、どちらが使いやすいと思いますか?
メニューを選択してからより深い情報を確認できる方が使いやすいと思います。2行程度の説明文で興味を引き付けられてから選択していくという方が使いやすいのではないでしょうか。文字情報が多すぎたり、文字だけで構成されていたりすると読む気がなくなってしまいます。適度に画像が入っていることと、文字情報が多すぎないことがポイントです。
そのほかの情報として、市販直後調査の情報は必要ですか?市販後調査の情報は製薬企業サイトの中でも見つけづらい場所にあることが多いと思いますが配置も含めていかがでしょうか?
このケースでは無くても困らないと思います。製薬企業サイトの中で主役になる情報ではないですし、掲載するとしてもページの端の方に配置されていれば良いと思います。
例えば、ページの閲覧履歴がページ下部に出てくるなどの機能があったら利用しますか?
あったら便利だと思います。製薬企業サイトはどのページも似ているので、「前に見たページはどこだったかな?」ということがよくあります。
ここまでのお話をまとめてできたレイアウトはこちらです。右側のエリアに入っているといい情報はありますか?
右側は特に必要な情報はないですね。
今作ったレイアウトだと、Web講演会情報が探しやすくて使いやすいと思います。関連製品情報も表示されているので、幅広い情報収集がしやすそうです。
ラボ編集部より
医師は製薬企業サイトでしか得られない情報を期待しており、添付文書などの他サイトでも閲覧できる情報は掲載していなくてもいいのでは、という医師の本音が語られました。
一方で、製薬企業サイトはしっかりした情報が載っているからこそ、閲覧するための時間が必要で、気力がないと内容が把握できないという、アクセスに対する外的・心理的要因も明らかになりました。
より情報を取得しやすくするために必要なのは、O先生にとって重要なWeb講演会情報が目立つ位置にあること、また、1ページで全体をざっくりと把握することができること、ページ上の文字情報が多すぎないこと、適度に画像が入っていること、などが挙げられました。
こういった医師のニーズを汲み取り、医師としてログインした後には医師にとっての使いやすさを追究した形での情報提供を行う、といった工夫を検討されても良いのではないでしょうか。
今後解決すべきことは?
今回は「医療系ポータルサイトのニュースで気になった薬剤情報を確認する際」の医師の気持ちや行動からページレイアウトを探りましたが、別のケースでは異なるニーズが存在するかもしれません。次回は「MRから提供された情報を確認する際」について同様にお話を伺います。(3月公開予定)
(文:松原)
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