新規処方をする際に欠かせない要素と、その要素の処方判断における影響度~処方決定までのプロセスを踏まえた新しい調査設計~
医師と考える白書データでは、DM白書で示された定量データへの理解を深めることを目的として、医師にインタビューを行い、回答に至るまでの背景や回答結果を踏まえて、製薬会社としてどのような取り組みをするべきかを明らかにしていきます。
前回(新規処方をする際に欠かせない要素と、処方判断における影響度~インターネット調査の実施と結果の検証~)は、「専門領域の薬剤を新規処方する際に影響する要素とその影響度を明らかにする」ことを目的に、DM白書内で行った医師へのアンケート結果について、4名の医師と検証を行いました。そして、アンケートで得られたデータが「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」を適切に反映していないという結論に至りました。
今回は、前回得られた結論を受けて、調査方法を見直すために医師2名と議論を交わし、新たな調査形式と設問内容を作成しました。
医師との議論
調査※1の目的である「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」をより適切に反映したデータを取得できるよう2名の医師には、調査の目的と内容を伝え、得られた結果が「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」を適切に反映していない可能性について伺いました。そして、より適切にデータを取得するための調査形式について意見を伺いました。
※1「専門領域の薬剤を新規処方する際に影響する要素とその影響度を明らかにする」ことをテーマに、以下の設問を作成し、調査
Q.先生が薬剤の処方判断の際に影響を受ける要素についてお教えください。影響を受ける要素全体を100%としたとき、それぞれの項目の占める比率を先生の専門領域についてお教えください。
※合計が100%となるようにお答えください。影響がない場合は0もしくは空白でお答えください。
医師のコメントから得られた処方判断のヒント
議論の中で、医師のコメントから処方判断のヒントを得ることができました。ヒントとなったコメントは以下のとおりです。
- ・「薬剤の有効性・安全性/薬剤プロファイル」は前提条件であり、絶対的な評価事項のため優先せざるを得ないので、パーセントで表現するのは難しく、ほかの項目と横並びだと選びづらい
- ・処方する際に「薬剤の有効性・安全性」のみで選ぶときと、それ以外の理由で選ぶときとでは頭の使い方がまったく異なるので、「薬剤の有効性・安全性/薬剤プロファイル」とほかの項目を並列させないほうが答えやすい
- ・「薬剤の有効性・安全性/薬剤プロファイル」について、同じレベルの薬剤が複数ある場合にはほかの項目が処方判断に影響してくる
- ・本当に処方するかしないかは、「MR・企業の対応」や「MR・企業に対する親しみ/薬剤に対する愛着」などが関わってくる
- ・新たな薬効で最初に登場した薬剤は、「飲みにくい」などプロファイルに多少難があっても有効性だけで処方されるが、2剤目以降の同じ薬効の薬剤は、プロファイルが改良されていることやMR・企業の対応などによって切り替えにつながるチャンスがある
処方判断のヒントとなった医師のコメントから、第1回目で行ったインタビューでの意見同様、「薬剤の有効性・安全性/薬剤プロファイル」は処方する際の前提条件であること、調査結果が「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」を正しく反映しているとはいい難いということが確認できました。
また、薬剤を処方する際の意思決定には、処方するかしないかを分けるボーダーラインがあること、意思決定には以下の3つのパターンが存在することが分かりました。
- ・意思決定のボーダーラインを突き抜ける有効性・安全性であれば、ほかの要素に関係なく絶対に採用する
- ・意思決定のボーダーライン付近まで来ているが、絶対採用のレベルまでは達していない場合、プラス要因やマイナス要因が最終的な意思決定に関係してくる
- ・有効性・安全性は確認できているが、既存薬との比較やそのほかの要因が影響した結果、採用や既存薬からの切り替えには至らない
できあがった処方モデル
医師との議論の結果、下図のような処方モデルができあがりました。
このモデルでは、処方の意思決定のレベルを縦軸にとります。「処方を前向きに検討するライン」と「処方を意思決定するライン」があり、2つのラインの間にはバッファが存在します。「薬剤プロファイル&患者ベネフィット」がベースとなり、プラス要因やマイナス要因の影響も考慮して、最終的に「処方を意思決定するライン」を越えた薬剤が処方されることになります。図の中の3つのパターンについての説明は以下のとおりです。
処方に値する | ・「薬剤プロファイル&患者ベネフィット」が優れているため、ほかの要素は関係なく処方の意思決定まで進む |
---|---|
パターン(1)既存薬からの切り替えを検討するに値する |
・「薬剤プロファイル&患者ベネフィット」は既存の薬剤と同程度で、「処方を前向きに検討するライン」は越えているが「処方を意思決定するライン」までは到達していない ・「薬剤プロファイル&患者ベネフィット」以外のプラス要因やマイナス要因が処方の意思決定に影響する |
パターン(2)既存薬の方が良いと感じている または、薬剤を使用していなかった |
・「薬剤プロファイル&患者ベネフィット」は既存の薬剤よりも劣ると評価されているまたは、薬剤の使用経験がない ・プラス要因が多いことなどにより「処方を意思決定するライン」まで到達する可能性はある |
完成した調査票
できあがった処方モデルをもとに、「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」を知るための設問を作成し、新たな調査票が完成しました。設問と回答形式は下記のとおりです。
本調査票により、前回の調査結果では得られなかった「医師の処方判断に欠かせない要素とその影響度」を正しく反映した結果が得られると考えています。
Q.先生の専門領域での新規の薬剤処方において、「薬剤の有効性・安全性」や「患者の日常生活におけるニーズを満たす薬剤プロファイル(用法・薬価・剤型など)」以外で、処方を決定づける要因となりうるものはどれですか。
下図のパターン別に各要因の影響度を6段階でお選びください。
●<パターン(1)>既存薬からの切り替えを検討するに値する薬剤の処方決定
●<パターン(2)>「既存薬のほうがよいと感じている」または、「使用していなかった」薬剤の処方決定
追加調査と今後の展望
今回作成した調査形式を用いて、DM白書2023年秋号の実査時に調査を行いました。実施した調査の詳しい内容と調査結果についてはDM白書ラボ内で後日報告します。
また、今後もDM白書の調査で得られたデータへの理解を深めるため、医師と議論を交わしていこうと考えています。DM白書内で気になる調査項目などがございましたら、当社担当までご連絡ください。