DM白書「役立ち度」評価指標とその背景 - MR編 -
医師と考える白書データでは、DM白書で示された調査結果への理解を深めることを目的として、医師にインタビューを行い、回答に至るまでの背景や回答結果を踏まえて、製薬会社としてどのような取り組みをするべきかを明らかにしていきます。
今回は、DM白書で定期的に調査している「役立ち度」※1についてです。
「役立ち度」を社内のKPIとして利用されている製薬企業もあり、先生方がどのような考えで回答しているのかを知りたいという声を多くいただきました。
そこで、先生方がどのような考えで各製薬企業の各チャネルを評価しているのかを探るため、2名の医師にインタビューを行いました。
本記事では、MRの「役立ち度」評価に対する意見をまとめています。
※1 「役立ち度」とは、医師が定期的に情報を入手している製薬企業の情報源(MR、インターネットなど)について、当該企業の情報が処方に役に立っているかについて11段階で評価いただいております。詳細はこちら を参照ください。
・診療科:腫瘍内科
・役職:副部長
・年代:40代
・取材月:2023年9月
・診療科:心療内科、内科、精神科
・役職:院長
・年代:40代
・取材月:2023年9月
目次
インタビュー実施手順
●定期的に情報を入手している製薬企業とチャネルの組み合わせを聴取
●11段階で評価項目が設定されていた場合、処方判断に役に立ったと思われる際の合格点を確認
●定期的に情報を入手している「製薬企業×チャネル」に対しての評価と、その理由をヒアリング
回答するにあたっての心情
●担当MRをイメージして回答している
●役に立つと評価するときは、情報提供を受ける際にMRが話していたことが思い浮かぶ
●役立ち度を回答する際には、定期的に面談しているMRから情報提供を受けている特定の薬剤を思い浮かべた
処方に役立ったと感じる点数
処方をする際に役に立ったと感じる合格点は、O先生は7点、I先生は6点でした。
製薬企業とチャネルに関して、上記の点数を基準として処方への役立ち度の点数をつけていただきました。
「製薬企業×MR面談・メール」 評価とその理由
各製薬企業と各チャネルについての評価とその理由は下記のとおりです。
MR面談
MR面談については、コメントをいただいた製薬企業のすべてが役立ち度の合格点を満たしていますが、MRの情報提供の内容によって評価が分かれました。
O先生の評価(処方に役立つと感じる合格点:7点)
●A製薬(9点)
・わたしが求めている情報を提供してくれる時点で普通に対応すれば8点ぐらいにはなると思うが、ちょっとした工夫などのMRの努力がみられる。
・希少疾病の薬剤について、臨床で出てきた疑問や課題に対してしっかり回答を持ち合わせていて、レスポンスも早い。
・闇雲に情報提供するのではなく、わたしが問い合わせたことに対して必要なことを提示してくれる。
・新しい薬剤に関する資料について、ポイントを押さえて分かりやすく伝えてくれる。
●B製薬(7点)
・MR自身がよく勉強しているなと感じるときは高評価。
・わたしからの情報が欲しくて面談に来るなど低評価の時もある。
●C製薬、D製薬(7点)
・会社から提供された資料を提示してくれる。
・資料の内容としては積極的に情報を得ようと思ったら製薬企業のサイトでも見ることはできるが、わたしがサイトをあまり見ないので役に立っている。
・講演会の案内だけで終わることもあるので、その点はマイナス評価。
●その他
・役立ち度にはMRの努力も影響するので、点数が低い企業のMRが点数の高い企業に転職したとしても、同じような高評価になるとは限らない。
I先生の評価(処方に役立つと感じる合格点:6点)
●E製薬(9点)
・実臨床に役立つ具体的な情報を提供してくれる。
●F製薬(7点)
・若いMRで頑張っていて、評価している人も多い。
・営業色が強く、処方の状況まで踏み込んで聞いてくる点はマイナス評価。
●G製薬(7.5点)
・F製薬のように営業色が強くなく、ほどよい距離感、ほどよい説明で、ほどよい頻度で来てくれる。
MRからのメール
MRからのメールについての評価は下記のとおりです。
O先生(処方に役立つと感じる合格点:7点)
●A製薬(8点)
・薬剤に関する相談で、わたしからメールすることが多い。
・わたしが質問したことに対しての回答のメールがメインで、問い合わせたことに的確に回答してくれる。
I先生(処方に役立つと感じる合格点:6点)
●E製薬(3点)
・ダイレクトメールのようなものが多く、表題だけ見て開封に至らないことが多い。
・MRからのメールというよりもメルマガ。
・週1回ほどのペースで届く。
●F製薬(3点)
・若いMRで頑張っている感が出すぎている。
・まめにメールを送ってくるが、大事な内容のメールと広告的なメールが混在している。
●その他
・MRのメールは案内メールが多いので、重要なフォルダに入らないようにしている。
・面談前に事前情報をメールで送られてきても見ない。
・面談後に追加情報をフォローしてくれるメールであれば、 評価は5点ぐらいまでは上がる。
MR面談、MRからのメールについて評価が上がる点、評価が下がる点
MR面談とMRからのメールについて、評価が上がる点と評価が下がる点を伺ったところ、下表のようなコメントが得られました。
評価が上がる点 |
・薬剤情報へのニーズが高いときは、MRがしっかり対応してくれれば評価は上がる ・MR自身がよく勉強しているなと感じるときは高評価 ・薬剤を使用するシチュエーションがわかる情報を提供してくれる ・ガイドラインが推奨している薬剤の使い方を情報提供してくれると、処方判断に役立つ ・わたし個人にあわせた情報を提供してくれる ・実際の臨床で使用したことのない場面や使用感などの、わからないことについての追加情報を提供してくれる ・質問に対してレスポンスが早く、正確な回答をしてくれる ・わたしが何を知りたいかということを考えてくれる ・実臨床に役立つ具体的な情報を提供してくれる ・処方で困ったときに、休日でもメールなどで対応してくれたときはとても助かった |
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評価が下がる点 |
・わたしから情報を収集することだけが目的の面談 ・講演会の案内だけ ・ポータルサイトで見られるレベルの内容の案内 ・既知の情報提供 ・メールは、ダイレクトメールのようなものがあまりにも多すぎるので開封に至らないことが多い ・毎回処方状況を聞いてくる ・営業色が強い |
処方状況による、役立ち度の評価への影響
医師による薬剤の処方状況が、役立ち度の評価に影響するかどうかについて伺ったところ、2名とも処方状況によって役立ち度の評価が変わってくるとのことでした。
おふたりのコメントを、処方経験がないまたは少ない薬剤の場合と、処方経験が豊富な薬剤の場合とに分けて、下表にまとめました。
処方経験がないまたは少ない薬剤の場合 |
・処方することに慣れていないときは知りたいこともたくさんあるので、MRとやり取りすることも増え、知りたい情報を提供してくれるので点数が高くなりやすい ・今まで知らなかった薬剤を新規採用して、MRからの情報提供によってヘビーユーズに変わっていけば、評価は高くなる ・全く処方していない薬剤に関しては高く点数をつけるわけにはいかないので、処方している薬剤に関しての情報提供が評価の対象となる |
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処方経験が豊富な薬剤の場合 |
・長く処方している薬剤に関しては、医師個人のことをよく理解したうえで情報提供してくれるなど、MR個人の努力によって評価が上がる ・新たな良い情報を提供してくれると評価は上がる ・普段よく使用している薬剤を販売している製薬企業の点数が高くなるわけではない |
ラボ編集部からのコメント
本インタビューにより、医師がMRの「役立ち度」を評価する基準は、評価のベースとなる「薬剤自体の情報ニーズへの対応」と、評価の加点減点に繋がる「MRの活動」とで構成されていることが明らかになりました。
役立ち度のベースとなる「薬剤自体の情報ニーズへの対応」とは、医師が必要とする情報を適切に提供できているかということで、MRが医師のニーズに応じた情報提供を適切に行うことで、このベースとなる評価点を獲得できると思われます。
また、ベースとなる評価点については、医師の処方状況によって変動することも示唆されました。
そして、このベース点を確保した上で、「MRの活動」による加点や減点が行われ、最終的な「役立ち度」の点数が決まると考えられます。
本インタビューでは、医師個々の状況に応じた情報提供や質問への迅速かつ的確な対応が加点に繋がり、MRによる一方的な営業アプローチや医師にとって既知の情報、医師自身がインターネットで容易に入手可能な情報の提供は減点につながる可能性が高いことが挙げられました。
今後、DM白書ラボでは、本インタビューを通じて得た知見を基に、リサーチテーマ「情報提供以外の処方影響要素と、その影響を高めるためには?」にて、詳細を明らかにしていく予定です。次回は、「インターネットチャネル」の役立ち度の評価指標、加点・減点ポイントについて医師インタビューした内容を掲載します。