取材年月:2023年12月
医師と考える白書データでは、DM白書で示された調査結果への理解を深めるため、医師にインタビューを行い、回答に至るまでの背景や回答結果を踏まえて、製薬会社としてどのような取り組みをするべきかを明らかにしていきます。
今回は、インターネットチャネルの「役立ち度」※1評価指標とその背景についてインタビューを行いました。
※1「役立ち度」は、医師が定期的に情報を入手している製薬企業の情報源(MR、インターネットなど)について、当該企業の情報がどの程度「処方判断に役に立っているか」を、0~10の11段階で評価いただいている指標です。こちらでも解説しています。
Y先生プロフィール
・施設形態:大学病院
・診療科:呼吸器内科/呼吸器悪性疾患専門
・年代:40代
インターネットチャネル「役立ち度」採点結果
製薬企業が運営するWebサイト、インターネット講演会、医療系ポータルサイトで定期的に情報収集する製薬企業と、役立ち度および合格点は下図の通りでした。この結果を踏まえ、Y先生にお話を伺いました。
製薬企業ウェブサイトへの「役立ち度」評価は、薬剤の公正な情報が掲載されているかどうかが基準
Y先生のインターネットチャネル役立ち度評価 製薬企業ウェブサイト
― 「製薬企業が運営する医療関係者向けウェブサイト」の採点理由を教えてください。また、加点や減点のポイントはありますか?
Y先生 |
A製薬(10点)、B製薬(10点)で、どちらも臨床試験の結果や有害事象対策など、公正な情報がわかりやすく丁寧に掲載されている点が評価の理由です。製薬企業のサイトには、正確で恣意的ではない情報を望みます。
加点ポイントは、サイト内が見やすく、わかりやすい見出しがついているなど、必要な情報を探しやすい点です。情報量が多すぎたり、有効性ばかり強調するような情報が掲載されたりしている場合は減点ポイントですね。
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― 副作用情報が製薬企業のウェブサイトに載っている場合、公正な情報を載せているということで評価は上がりますか?
Y先生 |
売り上げや処方を増やすために有効性情報ばかりを掲載するのではなく、“このような患者には使用しない方がよい”といった情報を正しく伝えてくれる企業の方が信頼性は高いと感じますので、企業の評価は上がります。
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― 公正な情報を提供するという企業姿勢を評価する部分が大きいのでしょうか?
Y先生 |
そうですね。有効性だけではなく安全性について伝えることや、患者サポート資料があること、講演会などで、使用しないケースや副作用について正しく伝えてくれる企業姿勢が見られることをわたしは高く評価しています。
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― 公正な情報を出している企業とそうでない企業とが同時に新薬を発売した場合には、やはり前者の薬剤を使用したいと思いますか?
Y先生 |
薬剤の良し悪しが第一ですが、百歩譲って効果も安全性も同等の場合、処方選択基準としてその次に優先されるのは製薬企業のサポートや企業姿勢です。
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― B製薬は、D製薬とのコ・プロモーション薬剤ですが、D製薬ではなくB製薬のウェブサイトを評価しているのはなぜでしょうか?
Y先生 |
B製薬のMRさんが訪問されているからです。B製薬のMRさんは副作用対策の報告を持ってきてくれるので、その薬剤に関してはB製薬のイメージが強いです。D製薬のウェブサイトがダメというわけではないです。
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インターネット講演会への「役立ち度」評価は、処方の参考にできる医師の意見や症例選別についての情報が得られるかどうかが基準
Y先生のインターネットチャネル役立ち度評価 インターネット講演会
― 「インターネット講演会」の採点理由を教えてください。
Y先生 |
インターネット講演会には、ほかの医師の意見など、処方の参考にできる情報が取得できることを期待しています。この点で、A製薬(8点)は、オピニオンリーダーの先生が講演されることが多く、実臨床に沿った内容が多い点が高い評価の理由です。B製薬(7点)、D製薬(7点)は、薬剤の対象症例の選別や使用タイミングの参考になる情報をインターネット講演会で得ることができました。C製薬(6点)は、エビデンス面での懸念が残る内容だと感じました。宣伝色が強く恣意的な印象を受けたため6点としています。
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― 加点や減点につながるポイントはありますか?
Y先生 |
インターネット講演会では、実臨床での薬剤使用時のお話など、製薬企業のウェブサイトには載っていない情報を、演者の先生へ質疑応答の時間を利用して聞くことができる点がとても参考になっています。この点については加点ポイントです。
講演内容があまりに製薬企業に忖度していたり、基礎の研究情報や研究ベースの内容であったりする場合は減点ポイントになります。研究や基礎医学の情報が多いと聞いていて疲れてしまうからです。
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― インターネット講演会は、ほかのチャネルと比較すると点差がありますがなぜでしょうか?
Y先生 |
よく使っている薬剤かそうではないか、という点が影響していますね。また、インターネット講演会は完全に受け身で見る内容なので、タイトルに惹かれて見たものの自分には必要な情報ではなかった、ということもあって点差がついています。
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― 薬剤への興味度合いが、役立ち度へ影響するということでしょうか?
医療系ポータルサイトへの「役立ち度」評価は、新しい情報が簡潔に得られるかどうかが基準
Y先生のインターネットチャネル役立ち度評価 医療系ポータルサイト
―「医療系ポータルサイト」の採点理由を教えてください。
Y先生 |
「医療系ポータルサイト」には、新しい情報を短時間で取得できることを期待しています。A製薬(8点)は、使用方法が変わった薬剤の説明資料を医療系ポータルサイトで偶然見つけ、非常にわかりやすかったため高評価としました。この情報は同僚にも伝えて有効活用しました。D製薬(8点)は、動画での薬剤の選別や患者サポートの内容がわかりやすかった点が高評価の理由です。
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― 加点や減点につながるポイントはありますか?
Y先生 |
医療系ポータルサイトは、じっくり見るというよりは、Yahoo!ニュースなどのニュースサイトと同じような使い方です。短時間でパパっと見るので、簡潔に内容がまとまっていると評価が上がります。興味がある内容は自分でさらに調べるため、医療系ポータルサイトに細かい情報は期待していません。逆に、情報が細かすぎたり、情報量が多く読み終わるのに時間がかかったりする場合は減点対象です。
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― 役立ち度が高いと、処方量が増えるということはありますか?
Y先生 |
インターネット講演会も医療系ポータルサイトも、処方を増やすために情報提供されているとは思いますが、提供された情報をそのまま鵜呑みにすることはありません。処方については、自分でも情報を集めた上で判断しています。
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役立ち度の評価は、チャネルごと、評価時期、薬剤への興味度合いで変化
― これまでのお話から、先生はインターネット経由の情報収集において、製薬企業のウェブサイト、インターネット講演会、医療系ポータルサイトをそれぞれ使い分けていらっしゃるのかなと思いましたがいかがですか?
― 例えば、医療系ポータルサイトに掲載されているものと同じコンテンツが、製薬企業のウェブサイトに載っていた場合、役立ち度の評価は変わるのでしょうか?
Y先生 |
そうですね…。内容にもよりますが変わると思います。医療系ポータルサイトによく掲載されている3~4分の動画なんかは宣伝色が強いのかなと思って見ているので、それが製薬企業のウェブサイトに載っていると印象が悪くなりますね。逆に、医療系ポータルサイトに論文が掲載されていても見ない、ということもあると思います。
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― ここまで、普段処方されている薬剤の情報収集についてのお話が多かったのですが、新規採用の薬剤の場合どのような順番で情報収集されますか?
Y先生 |
まずはベースの論文に目を通します。そして製薬企業のウェブサイトで添付文書を確認します。その後、実際にどうやって、どういう患者さんに使うんだろう?という情報はインターネット講演会を参考にします。
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― なるほど。実際にこの情報収集を参考に処方に至った場合には、役立ち度は高評価になりますか?
― 今回は23年10月から12月の期間で評価をしていただきました。期間が異なると役立ち度の評価は変わりますか?
Y先生 |
はい。治療の優先順位が変わると、その時の最新データによって製薬企業の優先順位が変わり、役立ち度の評価も変わります。医師が求めている情報は流動的なので、時期によって評価は変わります。
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― 処方経験が豊富な薬剤と処方経験がないまたは少ない薬剤など、処方状況によって評価は変わりますか?
Y先生 |
はい。ある程度処方経験が豊富な薬剤に関しては、自分にとって未知の情報は貴重です。新薬や適応拡大の場合には未知の情報が多く、製薬企業のウェブサイトを見る機会も増えます。自分の知りたい情報と製薬企業の情報提供が合致していれば評価は高くなります。
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― インターネットチャネルからの情報で、処方影響のあったケースはありますか?
Y先生 |
インターネットチャネルからの情報によって、処方対象患者が増えたことはあります。その薬剤に対してネガティブなイメージはありませんでしたが、効果が期待できるラインと、効果が期待できないまたは有害になるラインがわからなかったので、得られた情報により少し幅広く使用することができました。逆に、副作用が出た場合やあまり有効性が期待できない症例については、インターネットチャネルから得られた情報をもとに使用を控えることもあります。
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インターネットチャネルの役立ち度UPのために必要なこと
― インターネットチャネルは、どんな点があると役立ち度が上がると思いますか?
Y先生 |
製薬企業のウェブサイトは、見やすさが大切です。見た目が変わってわかりやすくなると評価は上がるのではないでしょうか。インターネット講演会は、研究の話ばかりではなく臨床ベースの話を増やしてもらえると高評価になります。また、配信方法としてオンデマンド配信があると、評価は上がります。医療系ポータルサイトは、細かい情報よりも簡潔に短時間で情報取得できると評価が上がります。
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MR⇒インターネット講演会、医療系ポータルサイト⇒製薬ウェブサイトなどの、チャネル連携と役立ち度の相関
―
例えば、MRに案内されてインターネット講演会を視聴し、そのインターネット講演会の評価が高かった場合、役立ち度はMRとインターネット講演会どちらも高くなりますか?それともインターネット講演会だけが高くなるのでしょうか?
Y先生 |
MRが、わたしの役に立つインターネット講演会の情報を提供してくれたため、MRとインターネット講演会の両方とも評価は高くなります。
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― 両方とも評価が上がるというのは、インターネットチャネル間でも同じでしょうか? 医療系ポータルサイトで情報を閲覧し、その後製薬企業のウェブサイトで詳しい情報を取得した場合は、どちらの役立ち度も上がりますか?
Y先生 |
はい。同じく両方とも評価は高くなります。医療系ポータルサイトの情報には製薬企業のウェブサイトのリンクが貼ってあると、気になった情報についてすぐ詳細情報を確認できるのでとても使いやすいと思います。
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ラボ編集部からのコメント
製薬企業のウェブサイト、インターネット講演会、医療系ポータルサイトは、「インターネットチャネル」と一括りにされがちですが、Y先生のお話からうかがえたのは、各チャネルを異なる目的で利用しているという点です。
各チャネルの利用目的に合った情報提供を行うことが、役立ち度向上のための重要な要素と考えられ、同じ情報であっても、チャネルの利用目的に合致していれば役立ち度は高くなり、そうでなければ低くなるということもY先生の発言からうかがえました。
呼吸器悪性疾患を専門に見ておられるY先生の、チャネルごとの役立ち度の評価基準、加点・減点ポイントは以下です。
チャネル |
役立ち度の評価基準 (チャネルに期待する情報) |
加点ポイント |
減点ポイント |
製薬企業の ウェブサイト |
臨床試験の結果や有害事象対策などの公正な情報
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情報の探しやすさ
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情報の探しにくさ
恣意的と感じられる情報
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インターネット
講演会
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処方の参考にできる、オピニオンリーダーの講演や、薬剤使用方法やタイミングなどの具体的な情報
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実臨床での薬剤使用に関する情報
演者の先生へ質疑応答
オンデマンド配信
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宣伝色が強く恣意的
講演
研究や基礎医学に偏重した講演
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医療系
ポータルサイト
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新しい情報
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簡潔にまとめられた情報
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詳細な情報
情報量が多い内容
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「DM白書ラボ」では、今後医師が各インターネットチャネルに期待する事項を定量調査し、役立ち度向上のために各チャネルでやるべきことを明らかにしていく予定です。
次回は、内科の開業医に同様のテーマで行ったインタビュー内容をご紹介します。
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