希少疾患の情報収集とニーズ ― 診断現場のリアルと製薬企業への期待Vol.4
取材年月:2025年10月
希少疾患の診断・治療において、医師はどのように情報を集めているのでしょうか。
本記事では、医師へのインタビューを通じて明らかになった、希少疾患の診断・治療に携わる医師の日々の情報収集実態とニーズを紹介します。現場のリアルな声を知ることで、今後の製薬企業による情報提供や支援策のヒントとしていただければ幸いです。
希少疾患の診断・治療に向けた情報提供に課題を感じている製薬企業担当者は少なくありません。
そこで今回、実際に希少疾患の疑い・検査・診断・治療に関わった経験を持つ医師に、情報収集の実態とニーズについてインタビューしました。
目次
- ● 希少疾患の診断・治療において不足しているのは症例報告や治療経過の情報
- ● 主に論文や医書.jp、製薬企業サイト、また生成AI(ChatGPT等)を活用して希少疾患情報を収集
- ● 具体的な症例・治療経過の分かりやすいまとめ、専門外の医師にも伝わる要約や図解、そして医師の質問に迅速に対応できるサポート体制が求められている。
日々の情報収集が、希少疾患の診断につながる
ご自身の専門領域と合致する希少疾患Aについて伺います。疑うことができたのはなぜでしょうか?
希少疾患Aは、患者がいなくても日常的に情報収集していたため、疾患についての知識がありました。
では、専門領域から少し外れる希少疾患Bを疑うことができた理由は何でしょうか?
患者の検査結果が想定と違う場合に「なぜだろう?」と調べ始めて、希少疾患に気づくことが多いです。専門領域から外れる場合は常に情報収集しているわけではなく、来患後が情報収集の起点となります。来患前はそこまで手が回らず、疾患の存在を知る程度でとどまっています。
専門領域と合致する希少疾患と、専門から外れる希少疾患では、情報収集の方法は変わりますか?
はい。よく診ている疾患名を医療系ポータルサイトやメールマガジンの見出しで見かけても、すでに知っている内容が多いのでスルーしますが、専門領域と合致する希少疾患を見かけた場合は目を通します。専門から外れる希少疾患の場合は、見出しを目にしてもじっくり読むことはほとんどありません。
論文や専門サイトが主な情報源だが、希少疾患の症例と治療経過の情報不足が大きな課題
専門領域と合致する希少疾患Aの情報収集タイミングを教えてください。
専門領域の希少疾患は常に情報収集しています。自分で能動的に調べるのは実際に治療を行う時、他の医師から相談された時、論文で気になる情報があった時です。
どのようなチャネルを利用していますか?
論文が多いです。院内で利用できる「医書.jp」で和文雑誌をWebでチェックしています。製薬企業サイトの特集も読みますし、「ClinPeer(クリンピア)」※1というアプリも時々使います。学会で勧められたのがきっかけです。
医療系ポータルサイトやWeb講演会の利用頻度は?
m3やCareNetなどはメジャーな疾患向けの印象が強く、希少疾患の情報収集ではあまり利用しません。Web講演会もほとんど利用していません。希少疾患は情報収集のハードルが高く、能動的に調べないと情報が得られません。
必要な情報はどのようなものですか?
病理診断の方法と症例報告です。
情報収集する際の課題はありますか?
患者の経過に関する情報、治療をして、どのような経過をたどっていくのかという具体的な治療経過や症例報告など、経験不足を補うための情報が少ない点に困っています。メジャー疾患なら経験や同僚医師を頼れますが、希少疾患ではそれが難しい。MRも希少がんの情報を持っていないことが多く、逆に質問されることもあります。
診断・治療の流れで情報収集方法は変わりますか?
情報収集のきっかけや確認するチャネルは、来患前と同じく論文や製薬企業のサイト、インターネットです。
確定診断は先生ご自身で行いますか?それとも専門の先生や施設に引き継ぎますか?
専門医や専門施設に引き継ぐケースもよくあります。
治療段階で不足している情報はありますか?
ここでも、治療経過の情報が不足しています。
同等の効果効能で複数の薬剤がある場合の選定基準は何でしょうか。
複数の薬剤がある場合は別の疾患であっても自身が使用経験のある薬剤を選択します。どちらも使用経験がない場合は、院内の医師に使用経験がある薬剤を選択します。
普段からコミュニケーションのあるMRがいる製薬企業の薬剤を選ぶこともあります。Web上の情報提供が優れていて、よく見るサイトがあっても、それを理由にその企業の薬剤を選択する、ということはありません。
- ※1 MedPeerが運営する、専門医のための臨床研鑽アプリ。最新論文の要点を日本語で効率的に把握し、論文解説や症例検討を通じてエキスパートの視点を深く学べる。(サイトより引用)https://clinpeer.medpeer.jp/about
専門から外れる希少疾患の情報収集には、生成AIも活用
情報収集を行うチャネルについて教えてください。
疾患名が絞れていれば、論文(医書.jp)で治療に関する情報を探します。疾患名が絞れていない場合はChatGPT(生成AI)で論文を検索することもあります。ChatGPTは、SNSで提供されている医師向けの論文検索プロンプトを購入して利用しています。ガイドラインがあれば確認します。
希少疾患Bを疑い、疾患をリストアップする時点での情報収集について教えてください。
この段階では(1)診断をつけるため、(2)治療のため、それぞれで情報収集します。(1)は、想定と異なる検査結果や症状が現れた時に他の疾患ではないか?と調べ始めます。希少疾患だということが分かったら、(2)の「どう治療するのか?」の情報収集をします。専門領域同様、論文・ChatGPT・医書.jp・同僚医師にも相談します。
この段階で不足していることはありますか?
情報収集に時間がかかることです。ほとんどの場合、ガイドラインが存在せず、論文のサマリーもありません。自分が正しく、漏れなく情報収集できているのかどうかの確信も持てません。MRやMSLからも情報が得られず、短時間で正しい情報を得られる仕組みがあれば助かります。
MRに希少疾患の情報提供を期待しますか?
はい。わたしの質問に答えてくれるMRがいれば、ぜひ情報提供をお願いしたいです。
病理診断情報の充実と簡潔な資料が、希少疾患の早期発見・認知に直結する
他院から希少疾患の患者さんを紹介される際、どのような情報が診断精度やスピード向上に役立ちますか?
病理診断が不足していたために希少疾患を見逃すケースがあるので、しっかりとした病理診断の情報があると助かります。希少疾患を疑っていないため検査ができていないという場合もありますが。
希少疾患を疑えないのはなぜだと思いますか。
どうしても専門領域の勉強に重点を置いてしまい、希少疾患まで学ぶ余裕がないからだと思います。希少疾患は普段接する機会も少なく、知識がなくてもそこまで困らないことも背景にあると思います。希少疾患の簡単なまとめや、Figureのアブストラクトなどがあれば、専門外でも理解しやすく、認知や気づきにつながるのではないでしょうか。
診断・治療のための具体的な情報と並行して、検査・診断から専門機関への橋渡し部分の情報提供も必要:ラボ編集部より
今回のインタビューから、医師が希少疾患の情報収集において求めているものは、「具体的な症例報告と治療経過の情報」「専門外でもわかりやすい簡潔な要約や図解」「個別の質問に対応できるサポート体制」の3点であり、経験値を補える実践的な情報へのニーズが高いことが分かりましたが、この点で医師が製薬企業へ期待している点は現在のところあまり多くないと言えます。
希少疾患の診断、治療の情報提供においては、コンプライアンス的なハードルもありますが、MA部門と連携した情報提供を検討することも必要ではないでしょうか。
また、本インタビューでは受け入れ側の医師として、病理診断の不足点が希少疾患の発見につながるという指摘の声も聞くことができました。疾患を見つけ、治療に進むための情報提供と同時に、疑いのある患者へ適切な検査を行い、専門機関へ受け渡すための情報提供も必要ではないでしょうか。
今後解決すべきことは?
これまでの医師インタビューでは、希少疾患の診断~治療までに携わった医師にお話を伺ってきました。次回は、診断のみを行い、専門機関へ紹介した経験のある医師へのインタビューを予定しています。(2026年公開予定)
(文:松原)




