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希少疾患の情報収集とニーズ ― 診断現場のリアルと製薬企業への期待Vol.2

テーマ希少疾患における情報提供はどうあるべきか
検討フェーズ課題を見つける 
記事公開日 2025.12.02
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取材年月:2025年8月

希少疾患の診断・治療の現場で、医師はどのように情報収集しているのでしょうか。今回は、医師が日々の診療のなかで実施している情報収集について伺いながら、製薬企業に求めるサポートについて伺いました。現場の声を知ることで、今後の情報提供や支援のヒントになれば幸いです。

背景・目的

希少疾患の診断、治療に向けた情報提供に苦慮している製薬企業担当者も多いのではないでしょうか。
本インタビューでは、希少疾患の疑いを持ち、検査や診断、治療に実際に関わった経験を持つ先生に、日々どのように情報を収集しているのか、また製薬企業にどのようなサポートを期待しているのかについて、実体験をもとにお話を伺いました。

目次

詳細
  • ● 医師が希少疾患を疑うきっかけは、事前知識のあることが大きいが、専門から外れる疾患の場合、製薬企業の説明会であるケースもあった。
  • ● 診断・治療の過程では、ガイドラインや論文、MRからの情報、KOLへの相談など多様なチャネルを活用。検査や治療薬選定時には医師の経験談や専門家の意見が重視される。
  • ● 希少疾患の診断・治療には情報がまとまっていること、また、専門家のネットワークなど、信頼できる情報源が不可欠であるが、現状は十分とは言えない。
D先生プロフィール
施設形態
国公立病院
診療科
血液内科
専門
血液一般、造血幹細胞移植
年代
40代
チャネルマインドシェア
インターネット派
新薬の処方意向
新薬は進んで採用・処方を検討
薬剤の新規採用
最終決定の場に関与する立場である

専門・非専門領域問わず、医師が希少疾患を疑うきっかけは知識と情報収集の習慣にある

ご自身の専門領域の希少疾患Aに気づけた理由を教えてください。

私の専門領域で関わる希少疾患A(難病指定、国内患者数1~2万人程度)があります。多発性骨髄腫の治療中、通常とは異なる合併症が多発したため、希少疾患Aを疑いました。希少疾患Aについては事前に教科書や日常的な情報収集で知識があったことも大きかったです。

多発性骨髄腫のガイドラインには希少疾患Aとの合併について記載があるのでしょうか。

ガイドラインには載っていませんが、実際には合併することがあります。一度経験すると次からは発見しやすくなりますし、診断精度も上がります。

専門から少し外れる希少疾患についてはいかがですか。

希少疾患B(難病指定、国内患者数数百名の遺伝子疾患)は、患者来院の数カ月前に製薬企業主催の説明会で疾患や症状、治療法について学び、その後、製薬企業のWebサイトを参照し、具体的なイメージを持つことができました。
説明会での知識がきっかけとなり、実際に検査・診断につながった症例です。
専門領域外では情報が少ないため、製薬企業の説明会で検査方法や“疑う姿勢”を学ぶことが重要だと感じます。

製薬企業主催の勉強会で疾患について学ばれたということですが、もしWeb講演会で情報を入手していた場合、疾患の発見につながったと思いますか?

Web講演会は聞き流して頭に残らないことがあるので、疾患を疑うところまでいかなかったかもしれません。勉強会は半ば強制的にというか、お弁当食べながらというのもあって「せっかくご飯食べてるしなぁ。」「せっかく時間とって参加しているし、まあ聞いてみようかな」となりやすいですし、質問しやすい点でも頭に残りやすいと思います。

専門領域の希少疾患については来院前から能動的に情報を集め、専門外では症例遭遇時に集中的に調べる

来患前は、専門領域の希少疾患の場合はどのように情報収集を行っていますか?

日頃から治療薬や診断方法、新薬情報について常にアンテナを張っています。外来で希少疾患Aの患者さんを診る機会があるため、日常的にガイドラインや最新の論文、学会情報、製薬企業の情報などに目を通し、知識をアップデートしています。専門領域の希少疾患については、患者さんが来る前から治療や診断の選択肢を把握できるよう心がけています。

では、専門領域から少し外れる希少疾患の場合はいかがでしょうか。

専門領域外の場合は、普段から積極的に情報収集することは少ないです。実際にその疾患の患者さんを診る機会が生じて初めて、必要な情報を集め始めます。事前の情報収集よりも、症例と直面したタイミングで調べることが多いです。

診断過程では専門領域かどうかで情報収集チャネルを使い分け、ガイドライン・論文・MR・KOLなど多様な情報源を活用している

来患後、専門領域の希少疾患の場合どのように情報収集を行いますか?

専門領域の希少疾患患者さんの場合、患者が来院した後にガイドラインを確認し、関連する論文や学会誌、医療系ポータルサイトで疾患について調べます。診断がついた後も、患者さんの利益を損なわないよう、継続して情報を集めます。加えて、同じ疾患を経験したことのある身近な医師に診断方法や治療の実際について相談し、自分の知識と照らし合わせながら診療します。

ガイドラインやWeb講演会は参考にしますか?(専門領域・専門外共通)

ガイドラインは網羅的に参照します。一方でWeb講演会は、必要な情報が欲しいタイミングで開催されているとは限らず、流し聞きになることも少なくありません。ただし、Web講演会で取り上げられている希少疾患に関心がある場合、タイトルが目に留まれば意識して視聴することもあります。

Web講演会で専門領域と希少疾患のテーマが重なった場合、どちらを優先して参加しますか?

基本的には自分の専門領域がテーマのWeb講演会を優先して参加します。

実際に希少疾患Aはよく疑われる症例なのでしょうか?

希少疾患Aは、7~8年で5~6例程度と多くはありませんが、常に念頭に置いて診療しています。希少な疾患は意識していないと見逃しやすいため、症状から早期に疑い、検査を行うようにしています。

専門領域から外れる希少疾患の情報収集について教えてください。

専門領域から外れる場合は、まずインターネットを活用して基本的な疾患情報を収集します。さらに、新規薬剤の詳細な副作用や治療経験については、MRや施設内外の同僚医師、KOL(キーオピニオンリーダー)など専門家から直接話を聞くことが多いです。

検査・診断段階では院内外の検査体制や専門家ネットワークの有無が診断精度とスピードに影響、患者説明や紹介時には専門性・経験値の情報も重要

検査~治療へと診療を進める段階での情報収集はどのように行っていますか?

UpToDateで疾患概念や全体像をつかみ、論文で最新の知見を確認し、医療系ポータルサイトで疾患について詳しく調べます。症状や検査項目、発症部位や頻度などを調べて、具体的な検査計画を立てます。

希少疾患Aと多発性骨髄腫の合併症例を診断した経験が、情報収集や治療に対する考え方に影響を与えましたか?

はい、大きく変わりました。希少疾患の診断において、「疑うことができるか」「疾患概念のイメージがあるか」という点は非常に重要です。一度でも合併症例を経験すると、実際の治療経過や疾患像が具体的にイメージできるようになります。その結果、論文やガイドラインだけでは得られない実践的な知識が身につき、診断のスピードも向上します。これによって、早期治療や予後の改善にもつながります。
また、患者さんとしっかり向き合い、全身評価を徹底するようになってからは、重症例の理解も深まりました。重症例を経験することで「できる限り早く見つけなければならない」という意識がより強くなったと感じています。

検査や診断時に困ることがあれば教えてください。

院内で希少疾患の検査を実施できないことが多いのが一番の課題です。そのため、検査が必要な場合はKOLや希少疾患の専門医に相談することになります。しかし、外部機関に依頼することで検査結果が出るまで時間がかかり、結果として治療開始が遅れてしまうこともあります。専門病院であれば検査の対応が早いですが、自院ではどうしても時間的な遅れを感じます。
こうした状況では、検査結果を待たずに症状を根拠に治療を開始することもあります。希少疾患を疑った際、治療のタイミングが遅れがちになるため、KOLや臨床経験が豊富で信頼できる医師のアドバイスをすぐに得られる体制があると、非常に心強いと感じています。

専門家からのアドバイスサービスを利用することはありますか?

利用していません。自分自身で患者さんの状態を直接見て判断したいという思いが強く、相談する場合も、できるだけ臨床経験が豊富で実際にその分野の診療を行っている専門家に直接相談したいと考えています。症例数や経験値が十分な、信頼できる医師からの意見が最も参考になります。
保険適用外の治療など特別なケースについてはKOLに相談することもありますが、製薬企業からの情報提供も、選択肢を広げるうえで有用だと感じています。

患者や家族への説明で難しい点はありますか?

専門領域の疾患であれば、自身で説明できますが、専門外の内容や薬剤の使用感については説明が難しいです。専門家が新薬や海外データを含めて説明してくれると、患者や家族の納得度も高まります。

診断・治療中の患者さんを他院に紹介する際、困ることはありますか?

はい、困ることがあります。同じ血液内科であっても、紹介先の医師がどの分野を専門としているのか、またどれくらいの症例経験があるのかが分からない点が大きな課題です。こうした情報が事前に分かれば、患者さんにとってより適切な医療機関や担当医を選ぶことができます。紹介先の専門性や経験に関する情報をMRから提供してもらえると非常に助かります。

希少疾患情報がまとまっているWebサイトがあれば、役立つと思いますか?

はい、とても便利だと思います。希少疾患の場合、治療薬を扱う製薬企業が情報提供に力を入れているため、製薬企業のサイトで疾患の概要から治療法まで分かりやすく整理されているものをよく利用します。疾患の基本的な概念や全体像がつかみやすく、患者さんへの説明にも役立っています。
ただし、治療薬の情報に関しては自社製品が中心となるため、どうしてもバイアスがかかる点は否めません。複数の選択肢を比較できるような、より中立的な情報がまとめられていると、さらに使いやすいと感じます。

治療薬選択は効果・安全性のバランスや現場の経験則が重視され、MR・KOLからの実践的な情報提供が意思決定を支えている

希少疾患治療薬を選ぶ際のポイントは何ですか?

最も重視するのは、治療薬の効果と安全性のバランスです。どの薬剤にもメリットとデメリットがあるため、患者さんにとってメリットを最大限に活かせる治療戦略を考えます。もし効果が同じ薬剤が複数ある場合には、用法や服薬アドヒアランス、有害事象の出方などを基準に、患者さんの状況に最適な薬剤を選択します。

一度処方して使用実感があった薬剤は、その後の選定に影響しますか?

はい、処方経験がある薬剤は、その後も自分の判断材料として重視します。ただし、薬が効いた症例と効かなかった症例の両方を経験し、一般論やエビデンスも参考にしながら治療を続けます。
専門領域の疾患であれば症例数(N数)が多く、知識も豊富でエビデンスも揃っていますが、希少疾患の場合はN数が少ないため主治医の経験や主観が強くなりがちです。そのため、KOLの意見や他医師の経験談は参考になります。

施設での薬剤採用にルールはありますか。

院内では複数の治療薬を採用できるものの、基本的に採用薬は決められています。希少疾患に関しては採用薬が限られていることが多く、必要に応じて緊急に普段使っていない薬剤を購入することもあります。特に合併症が出た場合にはその対応が必要になります。

希少疾患の治療薬はどのように選び、情報収集していますか?

事前に治療薬を調べてから処方することが多いですが、効果がなければ次の薬剤に切り替えます。最初はMRから治療効果や有害事象、市販直後調査の結果、エリアでの処方状況など幅広く情報を集めます。場合によってはMRに聞かずに処方を決めることもありますが、後から近隣施設の状況なども確認するよう意識しています。

希少疾患Bの治療薬は、製薬企業の院内説明会をきっかけに診断に至ったということですが、院内説明会を開催した製薬企業の薬剤を優先して使うことはありますか?

説明会を開いてくれたからその企業の薬剤を優先的に使うことはありません。どの薬剤が最適かは自分でしっかり調べて決めます。ただし、薬剤の有害事象などについてすぐに質問できるMRがいると、情報収集のうえで非常に助かります。

例えば、希少疾患Bの説明が、院内説明会ではなくWeb講演会だった場合でも、診断のきっかけとなったと思いますか?

説明会は強制参加なので印象に残りますが、Web講演会は流し聞きになりやすく、記憶に残りにくいかもしれません。

希少疾患の早期診断・適切な治療には「まず疑う姿勢」と経験知の共有、情報集約サイトや医師間ネットワークの整備が不可欠

先生にとって、希少疾患は「自分で治療したい」疾患ですか?それとも他院への紹介を重視したいのでしょうか

疾患によります。希少疾患Aのように治療経験がある場合は、自分の中で治療法が確立しているので治療を担当します。ただし、出会う頻度の少ない希少疾患では治療法の確立が難しく、患者さん自身も専門病院での治療を希望される場合があります。専門領域外の疾患ではすべて自分で対応するのは難しく、情報を集めながら、症例数が多くエビデンスのある施設や専門家の情報にも注意を払っています。

希少疾患患者の診断経験は、他の希少疾患の診断にも役立ちますか?

はい、役立つと思います。似たようなケースに出会った際に他の医師へアドバイスしたり、検査をスムーズに進めることができるようになります。過去の経験が次の診断や治療の迅速化にもつながります。

希少疾患の可能性に気づくために必要なことは?

希少疾患は「まず疑うこと」が何よりも重要です。治療には複数の診療科が関わることも多く、経験がないと興味を持ちづらいのが実情です。総合病院など幅広い症例を診る環境では希少疾患の経験が積めますが、都内のように専門領域ごとに分かれていると経験する機会は限られます。一方、地方の中核病院では様々な疾患を経験でき、カンファレンスなどで希少疾患を疑う重要性を学ぶことができます。実際に経験していなくても、経験した医師が「こういう症状ならこの疾患も鑑別に入る」と若い医師に伝えることが、今後ますます重要だと考えています。

【国公立病院 血液内科 D先生】希少疾患疑い~治療における情報収集チャネルと必要な情報

【考察】製薬企業が知っておきたい医師ニーズ・とるべき対策・現状の課題

D先生の場合、専門領域の希少疾患については、日頃からガイドラインや論文、新薬情報などを継続的に収集していることが、「おかしい」と思った時にすぐ疾患を疑う力につながっています。過去に経験した合併症例や異常な臨床経過が、疑いのきっかけになることも多いと感じています。
一方で、専門領域外の希少疾患に関しては、普段は意識的に調べることが少なく、実際に診療現場で症例に出会ったり、製薬企業の説明会やMRからの情報提供があったりすることがきっかけとなって初めて「この疾患も考慮しなければ」と気づくことが多いと語っています。

D先生が情報収集の点で課題を感じているのは、院内で検査ができない場合に外部機関へ依頼せざるを得ず、診断・治療が遅れること、また信頼できる専門医やKOLへの迅速なアクセスが難しいことです。さらに、情報が断片的で、若手医師や専門外の医師に知識や経験を伝える仕組みも十分でない点を挙げています。

製薬企業には、具体的な症例を交えた現場目線で役立つ情報の提供や、MR・KOLネットワークの強化、医師間連携のサポートなど、より実践的な支援を期待しています。

今後解決すべきことは?

希少疾患の情報収集は、診療科や施設によっても異なるのではないか?という仮説から、次回は同じ血液内科ですが一般病院勤務医へのインタビューを掲載予定です。(25年12月以降掲載予定)
(文:松原)

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