製薬業界で進むオムニチャネルマーケティングの背景と重要性
1.オムニチャネルマーケティングとは
オムニチャネルマーケティングは、消費者がどのチャネル(オンライン、オフライン、モバイルなど)を利用しても、一貫した体験を提供するマーケティング戦略です。医療業界においても、医師に対して医薬品情報を提供する際に同様のアプローチが求められます。統一されたメッセージとブランド体験を通じて、医師との関係を構築し、信頼を育むことが目指されています。
また、ここで「マルチチャネル」と「オムニチャネル」の違いについて触れたいと思います。マルチチャネルは、複数のチャネルで顧客にアプローチする手法を指しますが、各チャネルは独立しており、一貫した体験が必ずしも提供されるわけではありません。一方、オムニチャネルは、異なるチャネル間でのシームレスな体験と一貫性を重視しており、医師がどのチャネルを通じても同じ情報とサービスが得られることを目指しています。
2. 製薬企業がオムニチャネルマーケティングに取り組む背景
2.1医師の断続的な薬剤情報収集活動の特徴
従来から、医師の勤務実態は多忙を極め、医師は診療の合間を利用して薬剤情報を収集しています。MRとの面談やWeb講演会の視聴も、診療の都合から途中で切り上げざるを得ないことが珍しくないと報告されています。そのため、納得するまで集中して薬剤情報について理解を深めることよりも、断続的に情報収集を行う中で徐々に薬剤についての理解を深めるケースの方が多いでしょう。
特に、医師自身が新たな処方判断の必要に迫られていない薬剤に関しては、その傾向が顕著であると推察されます。
断続的な情報収集ということは、ある時はWeb講演会を利用し、またある時は医療系3rdPartyや製薬企業サイト、といった様々なデジタルチャネルを活用し、さらにMRとの短時間の情報交換を行うなど、複数のチャネルを駆使した情報収集活動が行われているという状況です。
2.2 医師の薬剤情報収集活動のインターネットへのシフト
MCI DIGITALでは長年にわたり『医師版マルチメディア白書』を通じて、医師の薬剤情報収集活動について調査してきましたが、コロナ禍以降、多くの医師がインターネットチャネルを主な情報源としていることが明らかになっています。
DM白書24年冬号の調査結果では、勤務中に週に数回以上スマートフォンを用いて薬剤情報を確認していると回答した医師が5割を超えることが分かりました。この傾向は若年層ほど顕著です。
※1勤務中のスマートフォンによる疾患・薬剤情報収集の実態など3テーマ(2024年冬号)
2.3 処方判断の決め手となるチャネルはMRが主役
最後に、医師が情報収集を行った結果、処方判断の決め手となったチャネルについて触れたいと思います。
図「処方行動が変化した薬剤の情報入手先(情報源)」の通り、薬剤情報の入手チャネル(情報源)はMRとインターネットサイトがほぼ同等である中、決め手となったチャネルの回答率はMRがインターネットの約1.5倍となる76.9%となっています。
医師の薬剤情報収集活動の主軸がインターネットチャネル群に移行しても、処方判断の際にはMRへの個別質問等が重要な役割を果たしていることは従来から変わりありません。
3.まとめ オムニチャネルマーケティングの重要性
ここまで3つの観点から、製薬企業が取り組むオムニチャネルマーケティングの背景を説明してきました。
- 1. 医師の薬剤情報収集活動が複数のチャネルで断続的に行われるという特徴
- 2. 医師の薬剤情報収集活動のインターネットへのシフト
- 3. 処方判断の決め手となるチャネルはMRが主役
このような背景から、製薬企業がインターネット上の各種チャネル群だけでなく、MRも含めて一貫した情報提供を行うことが、いかに便利で、薬剤理解に効果的であるかをご理解いただけたのではないでしょうか。
製薬企業によるオムニチャネルマーケティングへの取り組みは、医師にとっての利便性が高いため、今後ますます重要性が増してくると考えられます。
オムニチャネルマーケティングの重要性にいち早く気づいた企業は、既にこのマーケティング手法を実行するための環境整備を始めています。
近年、先行企業では、MR活動に対するVeeva等によるデジタル化や、医療系3rd Partyとの視聴データの連携、オウンドサイトの環境整備(medパス※2認証等)といった取り組みが進展しています。これにより、ターゲット医師の個人を特定した行動ログを蓄積し、オムニチャネルマーケティング的な発想に基づいて、行動ログが利活用される実用段階に入りつつあります。MRのディテール活動のレコメンデーション精度も徐々に向上が見込まれます。
製薬企業内でオムニチャネルマーケティングを実践するためには、マーケティングに関わる各部門が足並みをそろえることが不可欠です。そのため、社内の認識を共通のものにしたり、オムニチャネルマーケティングの実現に向けて必要な取り組みを整理したりする動きも、すでに各社で始まっています。
まだ取り組みが本格化していない企業の皆様には、本記事がオムニチャネルマーケティングの重要性を再認識する一助となれば幸いです。
なお、DM白書ラボでは、製薬企業のオムニチャネルマーケティングへの取り組みに関する医師インタビュー など、関連記事も掲載中です。ぜひご覧ください。
(文:河南)
※2株式会社medパスが提供する「医療関係者の共通ID」。medパスIDを利用し複数の医療サイトを1つのID/パスワードで利用することができる。
出典
DM白書2024年冬号
調査期間:2024年10月4日~10月17日
調査方法:インターネット
有効サンプル数:医師5,117名
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