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オムニチャネル戦略におけるMR活動の変革(大鵬薬品工業株式会社)
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今回は、製薬企業のオムニチャネル戦略におけるMR活動の変革に向けた取り組みについて、大鵬薬品工業株式会社のデジタル・IT統括部 医薬DX課のおふたりにインタビューを行いました。
大鵬薬品工業というとMRの営業力が強いというイメージがありましたが、MRのデジタルリテラシー向上を積極的に推進し、MRとデジタルの融合に向けた取り組みを積極的に展開されておりました。
取材年月 2023年11月
【インタビュー企業紹介】
大鵬薬品工業株式会社
デジタル・IT統括部 医薬DX課
課長 川原 智弥 様、星野 享子 様 ※所属・役職等は取材時点のものです
デジタル・IT統括部 医薬DX課
課長 川原 智弥 様、星野 享子 様 ※所属・役職等は取材時点のものです
医薬DX課の役割紹介
― 医薬DX課の役割と業務内容についてご紹介いただけますでしょうか?
川原様 |
医薬の事業部(以下、医薬本部)内にある営業推進部という現場向けの営業施策を発信したり推進したりする部署のなかで、デジタル推進課というかたちで発足しました。 リアルで情報提供活動を行っているMRに、デジタルチャネルをどのように組み合わせていくかという点について発信や推進を行ってきました。その他にも、MRの基幹システムとしてのCRMシステムの導入や管理なども行っていました。 2023年の7月からは医薬本部を離れて、全社のデジタル・ITを統括する部門のなかのひとつの課として医薬DX課が始動しました。 |
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大鵬薬品工業におけるオムニチャネル戦略とMRのデジタルリテラシー向上に向けた従来の取り組み
― オムニチャネル戦略の方向性についてご紹介いただけますでしょうか?
川原様 |
MRの情報提供で完結するような時代ではなくなっているので、デジタルチャネルからのアプローチをどのように増やしていくかという点と、MRとデジタルチャネルをどのようにリンクさせていくかという点について、取り組みを推進しています。 弊社では、COVID-19流行の前から少しずつWeb講演会などのデジタルチャネルからのアプローチを増やしてきていましたが、COVID-19流行によってやらざるを得ないという状況でデジタルチャネルが急速に増えていきました。 最初はMRの情報提供量が減っているのをどう補うかというところでデジタルを活用していましたが、訪問規制が緩くなってきた中で、MRとデジタルチャネルをどのようにミックスさせていくかという方向性に変わっていきました。 |
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― MRがデジタルチャネルをミックスした活動を行うためにはMRのデジタルリテラシー向上が不可欠ですが、課題はありましたか?
川原様 |
MRの活動自体が大きく変わったので、MRの発想を変えていくことが重要だと思いました。 とはいえ、急に変えるのは難しいので、なぜ変化が必要なのかというところのマインドセットや、どのようなツールを使ってどのように活動を行えばいいのかという方法論のところが課題でした。 また、どの程度まで行えばよいのかという目標の定量化といったところを丁寧に発信していく必要がありました。 |
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― 課題に対してどのような取り組みをされましたか?
星野様 |
もともとのデジタルリテラシーに関しては、オンライン面談さえもままならないところから入っていき、成功例をみんなで共有することによって普及していきました。 |
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川原様 |
デジタルツールは、COVID-19流行の直前ぐらいにMicrosoft
Teamsが使えるようになり、最初は使いこなせていませんでしたが、使わざるを得ない状況になったので少しずつ慣れていきました。 COVID-19流行で医療機関にまったくといっていいほど訪問できなかったときに、営業推進部から全国向けにTeamsを使用した営業施策の発信と、デジタルでの情報提供をうまく実践しているMRの事例共有などを頻繁に行っていました。 具体的には、1日単位で番組表を細かく作ってアナウンスし、任意で参加してもらっていました。その期間を通じて、ノウハウの共有や成功例の共有がかなり進んだと思います。 |
― 取り組みからみえてきた、新たな課題はありましたか?
川原様 |
MRの活動データをトラッキングしていく中で、MRの個人差がすごく大きく、すぐに対応してくれるMRとそうでないMRが明らかになりました。 対応できないのは、一概に年齢だけでもなく、優秀だと評価されていたMRがすぐに対応できたというわけでもありませんでした。 デジタルの活用が進まない人は、「なんでやらなきゃいけないの?」「本社が言っているだけじゃないの」という考えを持っていて、特に、自分の過去の成功体験などから自分の活動自体を変えることに抵抗感がある人でした。 そのような人のマインドをどう変えていくか、納得感を持ってもらいながら変えていくためにはどのようにしたらいいのか、というところは課題として感じました。 |
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MRのデジタルリテラシー向上に向けた新たな取り組み
― 課題の解決に向けて、さらに取り組んだことはありますか?
川原様 |
MRとデジタルチャネルをミックスすることへの現場の抵抗感を取り除くため、発信の仕方を色々と考えました。 現場には「本社が言っていること」という、本社が現場のことを正しく理解しているのかという疑念が少なからずあります。 そのため、「本社が言っているのではなく、医療関係者が求めています」という形に主語を変えて発信することにより、納得感を持ってもらえるように進めていきました。 |
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― 具体的な取り組みの事例などを教えていただけますでしょうか?
川原様 |
取り組みの事例としては、MCI DIGITALの『医師版マルチメディア白書』をおおいに活用させていただきました。 元々は、本社の関係部署だけで閲覧をして、その後の戦略立案に役立てていました。しかし、現場に出さないのはもったいないということで、星野を中心として現場に必要な部分のみをレポート化し、MRのリテラシーを上げるための学習用の教材として発信しました。 また、MCI DIGITALのeラーニング動画『DM白書スタディ』も学習用ツールとして使わせていただき、医療関係者からの声として伝えていきました。 |
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星野様 | この取り組みを始めようとしたときに、『DM白書スタディ』をベストタイミングでご提供いただけたのも大きかったですね。 |
川原様 |
それでも、白書のデータについては「Webアンケートだから、そもそもデジタルリテラシーが高い先生の回答ばかりでは?」というように懐疑的にみる人もいました。 そこで、自社のMR数人に協力してもらい、白書にある質問と同じような質問について先生方に聞き取り調査を行いました。 白書データと併せて、その裏付けとして自社のMRが自社の顧客に対して聞き取ったデータも提示することで、より納得感を持ってもらえるように工夫しました。 |
― 取り組みを進めていくうえで、MRの目標設定はどのようなものでしょうか?
川原様 |
MR個人の目標設定にしないで、支店や課といったチームでの目標設定にしています。チームでの目標設定にすることで、チーム内でノウハウの共有ができますし、取り組みが進んでいる人が進んでいない人に対して積極的にフォローをすることによって、全体の底上げが可能となります。 実は、当初はMR個人の目標を設定していましたが、個人間で差が出てしまい、あきらめる人なども出てきて失敗してしまいました。 やはり、個人よりもチームとしての目標にした方がいいということで半年後にやり直しました。一度失敗したのが大きかったかもしれません。 |
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星野様 |
チームでの目標設定になりましたが、良い成績を残したMR個人を表彰する制度も導入しています。 |
川原様 |
KPIとしては、初期は具体的な活動にフォーカスしたKPIでした。例えば、メールの送信数や同意取得数、オウンドサイトの会員数、Web講演会を視聴した先生へのフォローアップの割合などです。 現在は、オムニチャネルの推進にフォーカスし、ターゲット顧客に対するオムニチャネルの活動によって変動する指標をKPIとして設定しています。 |
― 取り組みによってどのような成果が得られましたか?
星野様 | 『DM白書スタディ』の利用後アンケートでは、どの回でも70%以上のMRが「参考になった」度合いを5段階評価で4~5と回答し、実際に「自分で実践しようと思った」と回答したMRは90%を超えています。この結果から、MRの理解は高まったと思っています。 |
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―「医療関係者が求めている」と主語を変えた発信、積極的な情報共有、チームでの評価など、様々な取り組みがMR目線で考えられていて、非常にうまくいっていると感じたのですが、MR目線でここまで考えることができたのはなぜでしょうか?
川原様 |
医薬DX課のメンバーのなかでは、わたしを含めて数人がMR出身なので、現場の状況やMRがどのようなことを考えているのかもおおよそわかります。 また、MRの学術的なサポートをする学術職のメンバーや、星野のようにマーケティングデータのリサーチを行っていた者など、いろいろな価値観を持っている人がいます。 現在、医薬DX課のメンバーは5名ですが、チームが発足した当初はわたしを含めて3名で、システムに強いメンバーに来てもらっていました。その後、進めていきたい業務に対する知見のある人や、いろいろな経験を持っている人に来てもらいたいといういことで、会社の上層部と話しながら必要な人材に来てもらい、メンバーが多様化していきました。 やはり医薬本部内でのデジタル化なので、まずは医薬の現場でどのようなことが起きているのかを理解する必要があり、さらにシステムのことがわかっている人が必要というように、課としてやるべきことに必要な人材が集まった結果だと思います。 |
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今後の展望
― 近年ではAIによって先生に対する行動を決めるという流れもありますが、その点についてはどうお考えでしょうか?
川原様 |
弊社でもトライアルに向けた準備は進めていますが、最終的な判断はMRがしていくのが理想だとは思います。ただ、現実的には個人の判断だけですべて決めてしまうのは危険なので、いかにAIとMRの感覚を組み合わせていくかが重要だと思っています。 AIが推奨したことに対して、MRが感じることをミックスさせるとどのような成果がでるのか、どのような方法がベストなのかというところを、本社側で検証し続けていきたいと考えています。 |
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― 今後の展望やMRに求めること、注力していきたいテーマなどがありましたらお聞かせください
川原様 |
今後は、現在取り組んでいることをより深めていくというところで、ターゲットである先生に、より多くのチャネルでリーチできるよう、MRがしっかりと関わっていくというところを進めていきたいと考えています。 デジタルを取り入れる活動の中で、MRがいかに存在感を出すかというところと、自分が主役として情報提供の中心にいるという自負を持ってほしいと思っています。 デジタルチャネルの視聴があったからフォローをするのではなく、しっかりと視聴に導き、その理解を深めるためにフォローをするのが役目であるととらえて活動してもらいたいです。 そして、MRが各チャネルをつなぐハブのような存在になれると一番いいのかなと思っています。 最適なコンテンツ、最適なチャネルで情報を届けるためには、MRが中心にいて各チャネルをオーガナイズすることが重要だと思います。 先生の中には、MRが来ているからデジタルはいらないという先生や、デジタルで情報入手しているからMRと一切会わないという先生もいます。 そういった先生に対しても、MRが中心となってデジタルで情報を届け、デジタルだけで終わるのではなくMRがフォローしていくことで先生の情報への理解をより深めていくといった、踏み込んだ対応ができるMRを育てていきたいと思っています。 |
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